コラム

「最悪のシナリオ」検討──太陽フレア対策に日本政府も本腰

2022年12月13日(火)11時20分
太陽フレア

太陽フレアは黒点の周りで起きる爆発でサイズは1万~10万キロ、水爆に換算して10万~1億個分のエネルギーとされている(写真はイメージです) Pitris-iStock

<大規模な太陽フレア被害について、未だにリスクとして十分に認知されていないのが実情。地球にはどんな悪影響があるのか。生活に支障をきたすのか。これまでの観測史と、検討されている対策を紹介する>

日本の気象観測や天気予報に大きな役割を果たしている気象衛星「ひまわり」。1977年7月に打ち上げられた「ひまわり(1号)」以後、2022年12月13日午後2時から運用開始される最新の「ひまわり9号」までは、地球の天気を監視してきました。

政府は、太陽の表面で起きる爆発現象「太陽フレア」を日本独自で観測して「宇宙天気予報」に役立てるために、28年度にも打ち上げる「ひまわり9号」の後継気象衛星に観測センサーを搭載する方針を固めました。

大規模な太陽フレアが発生すると、広範囲に通信障害や停電が起きる可能性があります。現在は、総務省所管の「情報通信研究機構(NICT)」が米国の衛星観測データなどを使って、太陽フレアの状況を含む「宇宙天気予報」を毎日発表しています。

太陽は約11年周期で物質の放出量や相対黒点数が変化します。太陽活動の活発な時期には、太陽表面で巨大な爆発現象が起きやすくなり、地球での太陽フレアの影響も危惧されます。次に活動のピークになるのは25年と見られています。

今年になって、総務省の有識者会議は太陽フレアの影響の「最悪のシナリオ」を検討したり、研究者たちは宇宙天気予報の精度を高める方策をこれまで以上に熱心に議論したりしています。さらに3月には航空自衛隊に宇宙作戦群が編成、12月には航空自衛隊を航空宇宙自衛隊と改名する方針も固まるなど、今年は政府が宇宙からの脅威や被害を視野に入れ、真剣に対策に取り組む姿を示した一年となりました。

太陽フレアのこれまでの観測史と、今後の対策について概観してみましょう。

3段階に分かれた地球への悪影響

太陽フレアは太陽の黒点の周りで起きる爆発で、太陽活動が活発でない時期でも毎日数回は小規模なものが観測されています。発生すると黒点の周囲に明るい部分が出現し、短い時は数分間、長い時は数時間続きます。サイズは1万~10万キロ、エネルギーは水爆に換算して10万~1億個分とされています。

この現象を初めて観測したのは、イギリスの天文学者リチャード・キャリントンで、1859年のことです。当時は「1859年の太陽嵐」と呼ばれる現象が起きていて、過去最大級に太陽活動が活発でした。江戸時代の日本でも、現在の青森県や和歌山県にあたる地域でオーロラが見られたという記録が残っています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国、シリアと国交樹立 北朝鮮同盟国

ワールド

米関税措置への対応、石破首相「省庁の枠越えオールジ

ワールド

米とは為替の過度な変動や無秩序な動きは経済に悪影響

ワールド

米、イラン産石油巡り新たな制裁 中国の貯蔵ターミナ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が見せた「全力のよろこび」に反響
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 8
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 9
    右にも左にもロシア機...米ステルス戦闘機コックピッ…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story