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ヴィズマーラ恵子|イタリア

2025年におけるイタリア産ワイン市場の新潮流:関税と需要が織りなすダイナミズム

Shutterstock-luigi giordano

フロントローディング戦略からスパークリングワインの成長まで、2025年のイタリアワイン輸出市場を分析してみた。

イタリア産ワインの輸出市場の成長と展望

2024年におけるイタリア産ワインの輸出市場は、引き続き強い成長を見せており、特にスパークリングワイン、特にプロセッコの需要の急増がその牽引役となっている。
イタリアのワイン業界は、グローバル市場でその競争力を維持し続け、さらなるシェア拡大を達成している。
この成長は、イタリア産ワインが優れた品質を維持し、消費者の多様化するニーズに柔軟に対応していることに支えられている。具体的にどのような要素がその成功を後押ししているのかを深堀りし、今後の市場動向を展望していきたい。

| イタリア産ワインの輸出成長の概要

イタリアのワイン業界は2024年、前年に引き続き堅調な成長を遂げており、特に輸出額において顕著な成果を上げている。2024年1月から9月の間で、イタリア産ワインの輸出額は約5.9億ユーロ(約9600億円)に達し、前年同期比で5.63%の増加を記録した。この成長は非常に力強いものであり、2024年末には、イタリア産ワインの輸出額が初めて8億ユーロ(約1兆3000億円)を超える可能性が高い。

イタリアのワイン業界がコロナ禍を乗り越え、その後の回復を果たし、安定した成長を遂げていることを示している。
特に、高品質なワインを求める消費者の需要が世界中で拡大しており、イタリア産ワインの強みである「品質と価格のバランス」が支持されている。

イタリア産ワインの輸出量も増加しており、2024年9月までに16億リットルが輸出されており、前年同期比で3.42%の増加を記録した。
価格面では、平均的な輸出価格はリットルあたり3.68ユーロ(約610円)となっており、前年と比較して若干の低下が見られるものの、依然として高い水準を維持している。このデータからも、品質の維持と価格競争力の確保がうまく両立していることが伺える。

| スパークリングワインの成長と市場動向

イタリア産ワインの輸出市場における最大の成長分野は、間違いなくスパークリングワインだ。イタリアではこの発泡性ワインをスプマンテ(spumante)と呼んでいる。

スプマンテの中でも、プロセッコ(DOC、DOCG)はその需要の急増によって注目されており、2024年の輸出量は前年比16%増の2億9600万リットルとなった。この成長は、スパークリングワイン市場全体におけるイタリア産ワインのシェア拡大を意味しており、その売上高は13億ユーロ(約2110億円)に達している。

プロセッコの人気がこれほどまでに高まった背景には、手頃な価格帯でありながらも高品質であるという点が挙げられる。
消費者は、より高価なシャンパンや他の高級スパークリングワインに比べて、プロセッコを非常にリーズナブルな価格で手に入れることができるため、その人気は不動のものとなっている。

他のイタリア産スパークリングワイン、例えばフランチャコルタやトレントドックなどの高級ブランドは、売上高も販売量も減少傾向にあるが、それでもプロセッコの成長がその減少分を補う形となっており、イタリア全体のワイン輸出の成長を牽引している。

| イタリア産ワインの主要市場:アメリカ、ドイツ、ロシアの好調

イタリア産ワインの最大の輸出先市場は、依然としてアメリカである。2024年1月から9月までの期間で、アメリカ市場では1.4億ユーロ(約2280億円)の売上を記録し、前年同期比で8.5%の増加を示している。アメリカ市場では、スパークリングワインを中心に、その他のカテゴリーのワインも安定した成長を見せており、特に手頃な価格帯で高品質なプロセッコが人気を集めている。

また、ドイツ市場も好調であり、2024年9ヶ月間で867百万ユーロ(約1410億円)の売上を達成し、前年同期比で4.7%の増加を記録した。ドイツは、特に白ワインやスパークリングワインが人気であり、イタリアの伝統的な白ワインやプロセッコは消費者に広く受け入れられている。

ロシア市場も注目すべき動向を示しており、2024年9ヶ月間で173百万ユーロ(約280億円)を売り上げ、前年比で63%の増加を見せている。ロシア市場の成長は、近年の地政学的な問題にもかかわらず、依然として強い需要を示しており、特にイタリア産のワインは高級品として高い評価を受けている。

| 中国市場とその他の新興市場の動向

中国市場では、イタリア産ワインの需要が減少しているという厳しい現実がある。

2024年1月から9月の輸出額は62百万ユーロ(約100億円)となり、前年同期比で11%の減少を記録した。中国市場における高級ワインの需要は低迷しており、その影響を受けてイタリアワインの輸出も減少している。中国市場での需要低迷の原因には、経済成長の鈍化や消費者嗜好の変化があると考えられている。

一方で、ブラジル市場は非常に好調であり、2024年9ヶ月間で31.3百万ユーロ(約51億円)の売上を記録し、前年同期比で22%の増加を示している。ブラジルは、イタリア産ワインの新興市場として今後の成長が期待される地域であり、中産階級の拡大とともに、ワイン消費が増加している。このトレンドは、特にプロセッコや軽い白ワインといった、手頃な価格帯のイタリア産ワインに対する需要を押し上げている。


| 価格帯別の動向:低価格帯の需要増加

イタリア産ワインの輸出市場において、低価格帯のワインの需要が高まっていることは重要なポイントである。特に、プロセッコやヴェルメンティーノ、ピノグリージョなどの軽い白ワインやスパークリングワインは、手頃な価格でありながら品質の高さが評価され、世界中で需要が高まっている。

この傾向は、アメリカやカナダ、ブラジル、オーストラリアなどで顕著に見られる。

一方で、高価格帯のワイン、特にバローロやブルネッロ・ディ・モンタルチーノといった高級赤ワインの需要は安定しているが、価格の上昇とともに消費が鈍化する傾向も見られる。これらの高級ワインは、依然として特定の市場で高い人気を誇るが、全体的な需要は低価格帯のワインに押されている。


| アメリカ市場における「フロントローディング」の影響とイタリア高級ワインの需要

2024年のイタリア産ワイン市場の注目すべきトピックの一つは、アメリカ市場における関税政策を見越した「フロントローディング」(前倒し輸入)という動きだ。特に、イタリアの高級ワインブランド、例えばガイア(Gaia)やビソル(Bisol)などが予想を超える注文を受けていることが報告されている。

この現象の背景には、アメリカで新たに導入される可能性のある関税政策を避けようとする動きが強く影響している。

アメリカのトランプ政権下で、フランス製ワインに対して高い関税が課せられた経緯がある。
この政策によって、イタリア産ワインは間接的に恩恵を受けたが、再びアメリカ政府が新たな関税を課すのではないかという懸念が広がっている。

イタリア産高級ワインを取り扱う輸入業者の間では、「関税が上がる前に、今のうちにできるだけ仕入れておこう」という前倒しの仕入れが行われており、この動きが「フロントローディング」と呼ばれている。

この状況を受けて、イタリアの高級ワインブランドの一つであるガイア社は、2025年に出荷予定だったワインを前倒しで出荷することを決定した。ガイア社の経営者であるロッサーナ・ガイア氏は、アメリカ市場からの強いリクエストに応じて、すでに瓶詰めされたバルバレスコ(Barbaresco)などの供給を加速させ、年間供給量の50%を超える量をアメリカに向けて出荷したことを報告している。

この前倒しの供給は、新たな関税が導入される前にアメリカ市場向けの供給量を確保するための措置であり、まさに「フロントローディング」の典型的な事例だと言える。

特に、イタリア産の高級ワインは、他の安価なワインと比較して高額で取引されるため、関税が引き上げられることにより価格がさらに上昇することを懸念する輸入業者が多い。これらの業者は、今のうちにできるだけ多くの在庫を確保し、関税増税前に安価な価格で販売する戦略を取っているのだ。


| 高級ワイン市場の変動と今後の展望

イタリアの高級ワインブランドは、特にアメリカ市場においては、プロセッコを中心としたスパークリングワインや、バローロやブルネッロ・ディ・モンタルチーノといった高級赤ワインの需要に支えられている。

しかし、関税政策が市場に与える影響を無視できない現実となっている。「フロントローディング」の動きは、今後も続く可能性が高い。

トランプ政権の関税政策によって、イタリア産ワインに対する関税が変動する場合、同様の前倒し輸入の動きが加速するだろう。輸入業者は、現行の関税が低いうちに仕入れを増やし、関税が高くなる前に市場に供給するという戦略を採り続けることが予想される。

一方で、アメリカ以外の市場でも関税政策が影響を及ぼすことがあるため、イタリアのワイン業界は、今後も国際的な貿易政策や関税の動向に敏感でなければならない。

新興市場や低価格帯のワインの需要が高まっている中で、高級ワインブランドは、関税リスクを軽減するための柔軟な輸出戦略が求められるだろう。

イタリア産ワインの価格帯においては、低価格帯のワインが世界中で支持を受ける一方、高級ワインブランドにおける競争も激化しているので、フロントローディングに見られるような仕入れ競争が、今後さらに市場のダイナミズムを加速させる可能性がある。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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