
中東から贈る千夜一夜物語
「世界三大うざい国」に挙げられるエジプト ー 改革は進むか?

エジプトといえば、ピラミッドやミイラ。ピラミッドの建築方法やミイラの作り方は謎に包まれたままだ。何千年も前、まだ現代のような技術が発達していなかった時代に、古代エジプト人が成し遂げた信じがたいまでの偉業...これらの秘密はいまだに解明されていない。このピラミッドに憧れてエジプトを訪れたいと思う人も多いことだろう。実際、国連世界観光機関の報告書によると、エジプトの 2024 年の観光収入は過去最高の 141 億ドルに達し、アフリカで第 1 位となった。
エジプトで一番有名なピラミッドはギザにある三大ピラミッドだ。クフ王、カフラー王、メンカウラー王がそれぞれ作ったもので、クフ王のピラミッドは世界最大級の大きさ。ピラミッドの底辺の長さは約 230m、高さは約 146m。このギザのピラミッドのすぐ近くには大エジプト博物館が建設され、2025 年 7 月 3 日に全面オープンすることが決まっている。エジプト政府は今後も観光地の開発や整備に力を入れ、さらに観光客を呼び込みたいと思っている。
ところがこの開発を阻むものがある。エジプトを「世界三大うざい国」の 1 つに仕立て上げる者たちの存在だ。ギザのピラミッドにたむろっている馬やラクダ乗りと行商人たち。彼らの存在は往々にしてツーリストから煙たがられ、不評を買ってきた。ギザだけではない。ルクソール、アスワンなどどの観光地に行ってもエジプト観光につきものなのが、このしつこい物売りたちやラクダ・馬乗りたちの存在。法外な値段をふっかけ、うるさく付きまとう。そのしつこさは、まさにハエのよう...。追い払っても追い払っても、どこまでも付きまとう、どこにでもいる...。まさに「うざい」のヒトコトである。

Odan 画像 ‐ ギザのピラミッド
私もエジプトに何度か観光に来たことがあるが、こうしたしつこい物売り達の存在にはほとほと嫌な思いをさせられてきた。これは何もエジプトに限ったことではない。ヨルダンも同じ状況だった。ペトラでは馬乗りたちとツーリストたちの間で争いが絶えなかったし、ベドウィンたちのしつこさや態度の悪さはかなり不評だった。
個人的に不思議なのは、この非効率さになぜ気づかないのだろうという点だ。人はしつこくされるとかえって離れていく。しつこく付きまわれて根負けするツーリストが中にはいるとしても、数はそれほど多くないだろう。ほとんどのツーリストは無視を決め込み、しつこい声掛けに振り返ることもない。商売をして成功したいなら、他にもっと効果的な方法があるだろうに...。
エジプトでは、観光地という観光地で行商人たちが「獲物」を狙って待ち受ける。どの観光地でも見られるのが、無秩序、カオス(混沌)、搾取...なのである。こうなると、ツーリストの方は「もういい加減にして!」という気持ちになる。風情も何もあったものではない。騙されないようにいつも身構えていないといけないし、はっきりいって「うざい」のである。私もご多分にもれず、エジプト人は鬱陶しいと思っていた一人である。
エジプトに引っ越すことを決めた時、あの「うざい」国民に囲まれて住むことになるのだと心を引き締めたものである。ところが、実際にエジプトに住んでみると拍子抜けした。日常で接するエジプト人は控えめで謙虚で大人しく、日本人とも波長が合う。街中におっとりした雰囲気が漂っていて、何だか心地よい。実際、エジプトに住んでいる外国人の多くは、人種に限らず「エジプトもエジプト人も好きだ」という。私もすぐに好きになった。観光地で獲物を待ち受けているエジプト人たちとは対極である。日常生活で、ああいうエジプト人に会うこと自体がまれなのである。しかし観光地では、こうしたいわば少数派のうざいエジプト人たちがエジプトを代表する形でツーリストを悩ましている。
残念なことに、ツーリストたちはごく普通のエジプト人たちと接することはない。かくして、旅の終わりには「やっぱりエジプト人は世界一うざい国民だった」...となるのである。
こうした行商人たちの存在は長く大目に見られてきた。大らかなエジプト人たちは、「まぁ、みんな商売しないと生きていけないからね」と、どちらかといえば彼らをかばう発言をしている。でも最近風向きが変わり始めた。こうした嘆かわしい現状に苦言を呈したのが実業家の Naguib Sawiris 氏だ。Sawiris 氏はギザ周辺への数百万ドルの投資を計画しており、高級レストランや電動バスなどを整備することで、ギザをより洗練されたモダンな観光地へ作り上げようとしている。
こうしたモダナイゼーション (近代化) の障害となるのがツーリストを搾取する行商人や馬・ラクダ乗りたちだと Naguib Sawiris 氏は指摘する。実際、この行商人たちの存在を歓迎するツーリストはいないだろう。主に大らかなエジプト人たちだけが同胞としての彼らの存在を受け入れてきたのだ。
個人的にはもっと早くこの議論がなされるべきだったと思う。今更という気もするが、決して遅くはない。早急に手が打たれるべきだ。もちろん、こうした行商人や馬乗りたちの生活がかかっていることを忘れてはいけない。単に排除するだけでは問題は解決しない。まずはツーリストを食い物にする行き過ぎた行動が改められるべきだ。より組織化されたシステムの導入が必要だともいわれている。しかし、最終的には排除の方向へ動いていく可能性もある。
とはいえ、ヨルダンでも政府はペトラのベドウィンたちの行き過ぎた行動を完全には制御できず、何十年も手を焼いてきた。とりわけ部族社会のヨルダンでは、政府と部族の長たちとの間で合意がなされることが必要である。その点エジプトはヨルダンとは異なり、かなりオープンマインドでマルチカルチャー (多文化主義) である。改革はいったん始まればヨルダンよりずっと早く進むと思われる。
表面的に体裁を整えるだけがモダナイゼーションではない。本当のモダナイゼーションは心の改革から始まる。アラブは優遇し、アラブではない外国人からは搾取しても良いという古いアラブ式の考え方は変えなければいけない。
笑ってしまうが、下のインスタ投稿は、アラビア語を話さない外国人が料金を尋ねた時とエジプト方言を話す外国人が料金を尋ねた場合の差を面白く描いている。アラビア語を話さない外国人の場合は 2000 ポンド、エジプト方言を話す外国人には無料となるのである。多少の誇張は入っているが、まんざら嘘ではない。これが中東である。
エジプト人は温厚で柔軟性がある国民である。本来のエジプト人の姿こそがツーリストを惹きつけると信じている。今後のエジプトのモダナイゼーションに是非期待したい。

- 木村菜穂子
中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。
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