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平野美紀|オーストラリア

LA近郊大規模火災に油を注ぐオーストラリアのユーカリ

米カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で発生した大規模火災の深刻化は「オーストラリアのユーカリ」が一因である可能性も…(画像:Shutterstock)

米国カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で発生した大規模火災。火の手は世界の名だたるセレブリティたちが暮らす高級住宅街を襲い、多くの人が避難を強いられ、住居が焼失してしまった人もいる。

昼なのに夕方のように薄暗く、ときおり炎を高く吹く上げ、煌々と燃える消えることのない火が空を紅く染める様は、5年前にここオーストラリアで起こった『史上最悪の大規模森林火災』を思い出さずにはいられない。

今からちょうど5年前、「オーストラリア史上最悪の森林火災はなぜ起きたか」というコラムを書いた。その中で、壊滅的な火災となっている原因として「少雨と乾燥」「高温」などを挙げたが、もうひとつの大きな要因は「オーストラリア固有の植生(植物)」にもあると指摘した。

オーストラリア固有の植物と聞いて、多くの人がすぐに思い出すのは「ユーカリ」ではないかと思う。ユーカリは、ご存じのように精油が採れる。アロマテラピーの世界では、ユーカリの精油は大変人気だ。

このユーカリに含まれる油分は、葉の部分に多く含まれ、揮発性が高く、空気中に油分を含んだ気体を放出する。この特性が、一旦 火災が発生すると鎮火が困難になる理由のひとつでもあるのだ。

今回ロサンゼルス近郊で起きた大規模な火災も、このユーカリが一因となっているかもしれないという指摘がある。こんなこというと、なぜ?アメリカなのに??と思う人も多いかもしれない。

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カリフォルニア州にあるスイート・スプリングス自然保護区の海に通じるボードウォークの横に聳え立つ大きなユーカリ。(画像:Shutterstock)

米カリフォルニア州とユーカリの関係

以前、このコラムでもオーストラリアの固有植物である「ワトル」がヨーロッパへ持ち出されて「ミモザ」になった話について紹介したことがあるが、西洋人がオーストラリアに入植した後、18世紀から19世紀にかけて、孤立した大陸で育まれた独自の珍しい固有植物がヨーロッパやアメリカへ数多く持ち出された。

ユーカリもそのひとつであり、珍しい植物として観賞用だけなく、精油が薬にもなり、その上、成長が早いことから、木材不足を解消してくれる魅力的な植物として重宝されたという。

カリフォルニアへは1853年に持ち込まれた後、1800年代半ばのゴールドラッシュ時に伐採された森林を補う目的もあり、1870年代に商業向けの大規模な植林が行われたそうだ。そして、ユーカリで儲けた富豪が現れ、1900年代初頭までにユーカリ産業に携わる企業が急増。当時100 社以上はあったと推定されるという。

シドニーからロスへ引っ越した人によると、気候が似ているというから、そうした意味では、ユーカリも違和感なく定着したことだろう。しかし、カリフォルニアの景観は、大規模なユーカリの植林によって、がらりと変わってしまった。

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ハリウッド・サインが見えることで人気のカリフォルニア州ロサンゼルスのグリフィス公園にあるユーカリの木立。(画像:Shutterstock)

こうして、カリフォルニアに定着したユーカリが、オーストラリアの大規模森林火災同様に、火に油を注ぐ格好となり、鎮火を困難にしたのではないかというのだ。この説に対し、「火災の一因となった可能性はあるが、ユーカリがそこまで火災に影響したわけではなく、気候変動によるものが大きい」と反論する学者もいる。

しかし、1991年に米カリフォルニア州オークランドヒルズで起きた、3,000以上の家屋が焼失した大規模森林火災について検証・調査したところ、この火災で放出されたエネルギーの約70%がユーカリによるものと推定された、という調査結果もある。この結果を受け、被災地区周辺では、ユーカリの木々を残すべきか、それとも撤去すべきかの議論が交わされていたようだ。(参照

もともとカリフォルニアに自生する樹木自体にも可燃性の高いものがあると言われ、カリフォルニアで発生する森林火災の原因がユーカリに限定されるわけではないが、オークランドヒルズ火災ではユーカリが大きな要因になっていたのは間違いない。

実際に、今回の火災でその名を何度も聞いた「パシフィック・パリセーズ」や「サンタモニカ」には、昔から多くのユーカリが植えられている。今回のLA近郊火災も「関係ない」とはいえないのではないだろうか。

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1924 年に撮影されたパシフィック パリセーズまたはサンタ モニカの丘陵のユーカリの木々(Credit: Adelbert Bartlett Papers. Department of Special Collections, Charles E. Young Research Library, UCLA.

人間が、その土地固有の植物を遥か彼方の異なる土地へ持ち出して移入した結果、移入先の生態系を破壊し、最終的には人間にとっても脅威となっていく... これから先の世界では、そんな悲劇ができる限り起こらないことを願うばかりだ。〈了〉

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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