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Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア

平野美紀|オーストラリア

5,500年以上前から地中で火がくすぶり続ける「燃える山」

1923年に撮影されたバーニング・マウンテン(ウィンゲン山)の様子。この山を説明する案内板より。(筆者撮影)

オーストラリア、ニューサウスウェールズ州の内陸部に、少なくとも5,500年前から地中で火が燃え続けている山がある。

人々はその山を「バーニング・マウンテン」と呼ぶ。日本語にすれば、まさに「燃える山」だ。この山は、世界最古の炭層火災として知られ、本当の名前は「ウィンゲン山」というが、「ウィンゲン」とは、この地域の先住民の言葉で「火」を意味するという。

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バーニング・マウンテン自然保護区への入り口。(筆者撮影)

炭層火災とは、地中の炭層がなんらかの要因で自然に発火し、継続的に火災が発生している状態。世界各地に点在するが、バーニング・マウンテンは、その中でも最も長く燃え続けているそうだ。

昨年末にラジオJ-WAVEの番組「PEOPLE'S ROASTERY」で、このバーニング・マウンテンについてお話させていただく機会があり、番組内でお伝えしたように、昨年のクリスマス時期にこの場所を訪れた。

火は地中でどのように燃えているのか?

世界で最も長く続いているこの火災は、少なくとも5,500年前に遡ると考えられており、火災は約100フィート(約30m)ほど地下で起こっていると推定されている。

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自然発火により数千年間燃え続けていることが記されたサイン。(筆者撮影)

また、バーニング・マウンテンでは、毎年約3フィート(約1 m)の速度で炭層を侵食し続けており、おそらく今後も長く燃え続けるだろうと研究者たちは推測しているそうだ。

先住民に伝わるこの山の神話

冒頭に記したように、この地域の先住民たちは昔からこの山を「火」を意味する言葉である「ウィンゲン」と呼んでいた。

数千年も前からこの地で暮らしてきた人々は、最先端の科学や測量技術など何もなくとも、この山の地中で火が燃えていることを知っていたのだろう。山と火にまつわる神話も残っており、山を神として崇め、信仰の対象として大切に守ってきたことが伺える。

その神話とは、以下のようなものだ。

戦争に行った夫の帰りを待っていたこの地の先住民ワナルアの女性が、帰らぬ夫を思い、自分の命も絶ってくれと神に祈ったところ、天空の神ビアミによって女性は石にされ、彼女の涙が火に変わり、山に火をつけた



実際に訪れてみたバーニング・マウンテンの様子

実は、私は過去にこの場所の近くを訪れたことが数回ある。しかし、まったくその存在に気がつかないほど、その場所はひっそりとしていた。

一見しただけでは、単なる低い山でしかなく、実際にその場所を訪れても火が見えるわけではない。ただ、国立公園事務局が管理する自然保護区となっており、ウォーキング・トレイルが整備されていることから、ハイキングやピクニックをするのには、なかなかいい場所だと思う。

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山の頂上からの眺めはなかなか気持ちが良い。頂上だけではなく、ウォーキング・コース上にいくつもピクニック・テーブルが設置されているので、お弁当を持って出かけるのにぴったりだ。(筆者撮影)

ウォーキング・トレイルを歩きだしても、よくあるオーストラリアの自然散策といった印象だ。とりわけ、他のこうした自然保護区とさして変わりはない。

ただ、地中で火が燃えているという場所に差し掛かると、タール(石炭が熱分解するとできる粘り気のある黒や茶褐色の液状物質)のような臭いが充満しはじめた。その場所で立ち止まり、地面を触ってみると、ほかの場所より地面が明らかに温かく、ほんのりと熱が伝わってくる感じだ。

きっと冬は温かいのだろう。先住民の人々は、寒い日もここにくれば暖かく過ごせることを知っていたに違いない。地面にシートを敷いて寝ころんだら、オンドルっぽい感じになるのかなとちょっと思ったが、風がない日だとガス中毒になってしまうかもしれないので、やめておいたほうが無難のようだった(笑)。(実際に、ガスに注意するよう促す看板が立てられている)

とりわけこれといった見どころがないように思えたバーニング・マウンテンだが、熱で粘土が焼かれて自然にできた「煉瓦」が地上に見えている場所があり、とても興味深かった。ウォーキング・コース上のところどころに、こうしたこの山と自然について説明する案内板が立てられているので、見逃さないように歩くのがおすすめだ。

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自然にできた「煉瓦」について説明する案内板。(筆者撮影)

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自然に作られた「煉瓦」の実際の様子。(筆者撮影)

また、山を伝って水も流れてきており、動物や昆虫たちも数多く見かけた。もちろん、多種多様な植物が生い茂っている。水があり、寒い日でも暖かく過ごせるこの場所は、人間だけでなく、その他の生き物たちにとっても暮らしやすい場所なのだろう。

5,500年前から地中で火が燃え続けているというのは、一体どういうことなのか?と、興味津々で訪れてみたものの、そんなことよりも、生き物が生きていくためには何が一番大事なのかをこの山が教えてくれているような気がした。〈了〉

【行き方】バーニング・マウンテン自然保護区へは、シドニーから車で約3時間半。タムワースへ向かう途中にある。

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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