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ヴィズマーラ恵子|イタリア

日本とイタリアにおける外国人の生活保護受給制度の違い

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イタリアの外国人による生活保護受給について

イタリアの生活保護制度、特に「Reddito di Cittadinanza(市民の収入)」や「Pensione di Cittadinanza(市民年金)」は、外国人にも適用される重要な支援制度であり、経済的困窮に直面するイタリア国内の住民を支えるために設計されている。

全国社会保障機関(INPS)

Reddito di Cittadinanzaは貧困対策として導入され、外国人も利用できる対象に含まれており、特定の条件を満たすことで、失業中や低所得の外国人にも支援が行われる。

| イタリアにおける外国人の生活保護受給資格

イタリアで外国人がReddito di Cittadinanza(市民の収入)またはPensione di Cittadinanza(市民年金)を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要がある。
まず、基本的な条件として、受給者がイタリアに居住していることが前提となる。
具体的には、以下の条件を満たす外国人が対象となる。

居住要件
イタリア国籍またはEU市民であること。
イタリアに10年以上連続して居住している非EU市民であること。
これにより、短期間の滞在者や観光ビザなどでイタリアに滞在している外国人は対象外となる。長期滞在している外国人、特にイタリアに永住権を持つ外国人や難民認定を受けた外国人が主要な受給対象となる。

経済的要件
申請者のISEE(所得状況の証明書)が一定額以下であることが必要であり、これは家庭の収入や資産の状況に基づいて決定される。
例えば、ISEEが9,360ユーロ(約1,525,680円)以下であることが求められる。また、家族の総財産が30,000ユーロ(約4,890,000円)以下でなければならず、住宅などは含まれない。
これにより、低所得の外国人世帯に対して支援が行われる一方で、高所得者や財産が多い外国人は対象外となる。

労働市場への再参入支援
Reddito di Cittadinanza(市民の収入)は、受給者に対して就業支援も提供する。
具体的には、職業安定センター(Centro per l'Impiego)での支援を受けながら、就業契約(Patto per il Lavoro)を結び、労働市場への再参入を促進する。
特に29歳以下の成人に対しては、積極的に職業訓練や就業支援を行う義務が課される。
受給者は就業可能であることを証明し、地域の社会サービスと連携して社会的包摂を進める社会的包摂契約(Patto per l'Inclusione Sociale)に同意する必要がある。
これにより、受給者はただの金銭的支援を受けるだけでなく、社会的・職業的な自立を目指すことが求められる。

| イタリアの「市民の収入(Reddito di Cittadinanza)」の詳細

市民の収入は、イタリア政府が2019年に導入した貧困対策の一環で、特に失業中や低所得者を支援するために設けられた。

外国人も一定の条件を満たすことで受給対象となるが、その支給額や支給条件には厳格な基準がある。

・支給額
支給額は家庭の状況や所得状況の証明書(ISEE)の値、家族構成に基づいて計算される。
基本となる支給額は、6,000ユーロ(約978,000円)からスタートし、家族の人数や収入に応じて増額される。
たとえば、家賃の補助(Quota B)も追加されることがあり、最大3,360ユーロ(約547,680円)まで支給されることがある。
家賃補助は、年間最大3,360ユーロ(約54万円、月あたり280ユーロ/45,300円)まで支給され、住宅ローンの補助は最大1,800ユーロ(月あたり150ユーロ/24,300円)までとなっている。
・受給条件
支給は最大18ヶ月間行われ、その後は再申請が可能だ。支給期間が終了すると、新たに審査を受ける必要があり、再申請が認められると翌月から再び支給が開始される。受給者が67歳に達すると、市民市民年金(Pensione di Cittadinanza)に切り替わる。

| イタリアの「市民年金(Pensione di Cittadinanza)」の詳細

市民年金は、市民の収入を受けた家庭の中で、特に高齢者や障害を持つ人々に支給される年金支援である。
受給者が67歳以上である場合や、重度の障害を持ち自立できない場合などに適用される。
この制度は、市民年金の基本的な条件を満たす家庭で、特に高齢者や障害者に対して追加的な支援を行うことを目的としている。


| 外国人の生活保護受給における課題

イタリアの外国人向け生活保護制度は、一定の支援を提供しているが、他のEU諸国や日本と比べて特異な点もある。
例えば、イタリアでは、外国人が長期間イタリアに居住していることを前提に支援が行われるため、短期滞在者や非正規滞在者が生活保護を受けることは難しい。
また、支給される金額や支援内容も、家族構成や収入状況に大きく依存するため、外部の社会的要因により、すべての外国人が平等に支援を受けられるわけではない。

加えて、外国人が生活保護を受けることで、労働市場への依存を避けるための施策が求められる。
しかし、就業支援が十分に機能していない場合、受給者が社会的・経済的に自立することが難しくなる可能性がある。

外国人受給者が文化的な違いや言語の障壁により、職業訓練を受けることが難しい場合、長期的な依存状態に陥るリスクもある。


イタリアの外国人による生活保護受給制度は、貧困層や失業者、障害者に対する手厚い支援を提供しているが、その適用条件は厳格であり、受給者が社会的・経済的に自立するための支援も重要な要素となっている。
外国人の場合、居住年数や財産、家族構成に基づく支援が行われ、就業支援や社会的包摂の努力も重要なポイントだ。これにより、外国人が生活保護を受ける際の課題や問題も浮き彫りになっているが、全体的には社会的包括の一環として機能している。


| 日本とイタリアにおける外国人の生活保護受給制度の違い

日本とイタリアにおける外国人の生活保護受給制度には、いくつかの決定的な違いが存在する。
これらの違いは、両国の社会保障制度や移民政策、福祉へのアプローチに起因するものであり、外国人に対する生活保護の提供方法や要件に顕著な差がある。

1. 外国人生活保護の受給資格

日本
日本の生活保護制度は、外国人も一定の条件を満たすことで受給できる。しかし、外国人が生活保護を受けるためには、「永住者」や「定住者」など、特定の在留資格を持つ必要がある。
生活保護を受ける外国人は、通常、収入がなく、生活困難であることが求められるが、日本国籍を持たないため、他の支援策が適用されることもある。
さらに、日本の生活保護制度は、受給者が「就労可能な場合」には、就労の義務が課せられる場合があり、就労支援が強調される。

イタリア
イタリアの生活保護受給制度は、基本的にイタリアまたはEU国籍を持つ住民に提供されるが、永住権を持つ外国人も支援を受けることができる。特に、市民の収入(Reddito di Cittadinanza)やPensione di Cittadinanza(市民年金)は、イタリアに10年以上居住した非EU市民にも適用される。
このため、長期間イタリアに住む外国人が支援を受ける機会は高い。また、外国人も日本と同様に収入や資産の条件を満たさなければならないが、支給条件は比較的緩やかで、経済的困難な状況にある外国人が受給できる場合が多い。

2. 支給額と支給対象

日本
日本では、外国人の生活保護受給において支給額は、原則として日本国民と同じ基準で支給される。しかし、外国人の生活保護受給に関する特例は少なく、外国人であっても、日本国民と同じように、収入や家族構成、財産状況に基づいて支給額が決まる。
とはいえ、日本の生活保護制度は、受給者が自立支援を受けることを前提にしており、働ける人には働くことが求められるため、生活保護の利用が一時的であることが多い。

イタリア
イタリアの支給額は、家庭の収入や家族構成に応じて計算され、支給額は基本的に月々一定額が支給される。市民の収入(Reddito di Cittadinanza)では、家庭の状況や資産、家族の人数に基づき支給額が決まり、家賃や住宅ローンの補助も受けることができる。
支給額は最大18ヶ月間支給され、その後は再申請を通じて支給期間を延長することができる。特に外国人が住んでいる住宅の家賃なども補助される点が特徴的だ。

3. 就労義務と支援内容

日本
日本の生活保護受給者は、就労可能な人には積極的な就労支援が行われる。受給者には生活保護を受け続けるために、就労可能な場合には就職活動を行い、職業訓練を受ける義務がある。
しかし、外国人の場合もこの条件が適用され、特に就労ビザを持つ外国人には、職業安定所のサポートを受けることが求められる。
また、生活保護受給中に就労した場合、収入が増えることで支給額が減額される仕組みがあるため、受給者の自立支援が強調される。

イタリア
イタリアでは、外国人にも同様に就業支援が行われるが、市民の収入(Reddito di Cittadinanza)を受けるためには、就業可能な場合、職業安定センターでの支援を受ける契約(Patto per il Lavoro)を結ぶ必要がある。
しかし、29歳以下の成人は、就業契約を結ぶために積極的な対応が求められる。また、就業に際しては社会的包摂契約(Patto per l'inclusione sociale)に基づき、社会的支援が行われる。
生活保護受給者は、障害者や65歳以上などの特例を除き、積極的に就労支援を受けることが求められる。

4. 生活保護受給における外国人の不正利用の問題

日本
日本では、外国人が扶養控除を利用して税金を回避するケースが指摘されている。特に、中国や韓国、ロシアなど、母国に住む親族を扶養家族として申告し、税金を大幅に減額する事例が報告されている。
これは、6親等以内の親族が扶養控除の対象となる日本の税制の柔軟さを利用したものであり、特に永住外国人にとって有利な点とされている。このような事例は、税務署などでの調査を引き起こしており、外国人による税負担の不公平感が問題視されている。

イタリア
イタリアでは、生活保護を受ける外国人が支給要件を満たす場合に支給されるが、不正受給に関する規制が強化されつつある。特に、不正な申告や虚偽の申請を防ぐために、生活保護の審査が厳格に行われている。
外国人が不正に生活保護を受けることを防ぐために、ISEE(所得証明書)や家族構成の審査が厳しく、申請者は定期的に状況の変化を報告する義務が課せられている。


| 日本の外国人生活保護受給の問題点と課題

不正受給のリスク
日本の生活保護制度において、外国人が扶養控除を多く申告し、税負担を回避するケースが増えている。特に、永住外国人が親族を扶養家族として申告することで税負担を減らすケースは、税務署や社会保障機関の監視を強化する必要がある。

就労支援の不十分さ
日本の生活保護制度では、就労可能な外国人にも就業支援が行われるが、言語の壁や文化的な違いが就労支援の障害となり、受給者が社会的に自立できる機会を提供することが難しいケースも存在する。このため、外国人に特化した就業支援策の強化が求められる。

支給額の不公平感
日本では、生活保護受給者に対して支給される金額が比較的低いため、外国人が生活保護を受けることに対しての不公平感を感じる国民がいる。また、日本における外国人に対する支援は、文化的な理解が不足しているため、外国人が支援を受ける際に直面する問題が多く存在する。


日本とイタリアの外国人生活保護受給制度には、支給対象や条件、就業支援、受給期間などにおいて大きな違いがある。

日本の生活保護制度は外国人に対する条件が厳格であり、就労支援が強調される一方、イタリアは永住権を持つ外国人や長期滞在者に比較的広範な支援を提供している。

両国にはそれぞれの課題があるが、特に日本においては、外国人に対する支援制度の整備と社会的な包摂が課題となっており、支援体制の強化が求められる。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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