
スペインあれこれつまみ食い
スペインを襲った4つの嵐 極寒の3月に春はまだ先か

近年、干ばつに苦しんできたスペインですが、ここ数週間で状況は一変しました。ヨーロッパ全土で異常気象が続く中、スペインでは「ジャナ」「コンラッド」「ローレンス」「マルティーニョ」と名付けられた4つの嵐が相次ぎ、記録的な豪雨と降雪、さらには急激な気温低下をもたらしています。これにより、国内各地で深刻な被害が発生し、多くの人々の生活に影響を与えています。
干ばつから一転、大雨による洪水被害
スペインではここ数年、深刻な干ばつが続き、多くの地域で水不足が問題となっていました。しかし、今回の嵐によって大量の降雨がもたらされ、各地の貯水池の水位は急上昇しました。環境移行省(MITECO)によると、国内の貯水率は現在65.8%に達し、長らく続いた水不足に対する一定の緩和が見られています。しかし、大雨はプラスの影響だけでなく、大きな災害も引き起こしました。特にアンダルシア州、ムルシア州、エストレマドゥーラ州、バレンシア州では洪水が発生し、多くの道路が冠水、住民の避難を余儀なくされました。マラガでは、グアダルオルセ川とカンパニーリャス川が氾濫し、多くの住宅地が浸水。交通網の麻痺により、30本以上の道路が通行止めとなりました。
セビリア県コンスタンティーナでは、ある夫婦が増水した川に流され、妻の遺体が発見されるという痛ましい事故も発生しました。また、コルドバ県では71歳の男性が豪雨の中で自転車に乗って外出した後、行方不明となり、現在も捜索が続いています。
大雪と寒波の到来:冬が再び訪れたスペイン
豪雨だけでなく、大雪と寒波もスペイン各地を襲いました。北部や中央部の山岳地帯では、標高の低い地域でも雪が降り、移動が困難になっています。特に、テルエル県やクエンカ県では気温がマイナス5度まで下がり、厳しい冷え込みとなりました。また、マドリード近郊のナバセラーダ峠やコトス峠では積雪が道路を覆い、車両の通行にはチェーンが必要となる状況が続いています。除雪作業が急ピッチで進められていますが、通勤や物流に大きな影響を与えています。この気象条件の悪化により、ムルシアではイムセルソ(高齢者向けの観光プログラム)の旅行者を乗せたバスが高速道路A-7で横転し、少なくとも6人が負傷しました。また、マドリード市内ではスリップ事故が相次ぎ、多くの車両が損傷。救急サービスの出動回数が通常の2倍以上に増加しました。
人々の生活への影響と経済的ダメージ
今回の異常気象は、市民の生活だけでなく、経済にも深刻な影響を及ぼしています。アンダルシア州やムルシア州では、大雨による浸水で農作物が壊滅的な被害を受けました。さらに、山岳地帯では雪の影響で放牧地が覆われ、家畜が十分な食料を確保できない事態が発生しています。農家は損害を最小限に抑えるために対応を急いでいますが、被害の全容はまだ明らかになっていません。また、停電も各地で相次ぎました。強風によって倒れた木々が送電線を破損し、一部の地域では長時間にわたる停電が発生しました。特に山間部では復旧作業が難航しており、住民は厳しい寒さの中での生活を余儀なくされています。
気象専門家の見解と今後の見通し
スペイン気象庁(AEMET)によると、今後も悪天候が続く可能性があり、新たな降雨や降雪が予想されています。特に北部と中央部の山岳地帯ではさらなる積雪が見込まれ、交通機関への影響が懸念されています。しかし、干ばつの影響が長期的に続いていたことを考えれば、今回の降水が貯水池の水位を回復させたことは、一定のメリットがあるとも言えます。専門家は、「異常気象に備えた持続可能な水資源管理が必要だ」と指摘し、今後の対策としてダムや貯水池の適切な維持管理が求められるとしています。
スペインは長年、干ばつによる水不足に苦しんできましたが、今回の異常気象により、全国的に豊富な降水がもたらされました。しかし、それと引き換えに多くの被害も発生し、多くの人々が影響を受けています。現在、救助活動と復旧作業が進められていますが、今後1週間は毎日雨予報のため、作業は難航するでしょう。もともと降水量が多くない首都マドリードでは雨に対する備えが甘く、一日雨が降れば道路が冠水し、地下鉄は浸水して電車に遅延が出るため交通が麻痺してしまいます。今後の気候変動に備える意味でも、スペイン政府と地方自治体は、より強固なインフラ整備と災害対策を進める必要があるのではないかと思います。

- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon