スペインあれこれつまみ食い
スペインの住宅不足解消へ 非EU市民の不動産購入に最大100%の課税
近年スペインでは不動産市場の高騰が大きな問題となっており、ニュースではこれに関する話題を頻繁に耳にします。
この現象の背景には外国人投資家の存在があると言われています。外国人投資家がスペインの住宅を投資として購入することによって、地元住民が住宅を手に入れる機会を失い、それが不動産価格を押し上げる要因の一つとなっているのです。2022年のデータによれば、スペイン国内で販売された住宅の約20%以上が外国人によって購入されており、特に、バレアレス諸島やカナリア諸島、地中海沿岸地域などでは、この問題が特に深刻と言われています。このような状況を背景に、ペドロ・サンチェス首相率いるスペイン政府は、不動産市場の投機的な動きを抑制し、市民が住宅を手に入れやすくするための新たな政策を提案しました。
外国人購入者に課税
この政策の中心となるのは、非居住の域外国人(EU域外)による住宅購入に対して追加課税を導入するというものです。この課税の目的は第一に、不動産投機を抑制し、市場価格の安定化を図ることです。特に、外国人投資家がセカンドハウスとして購入したり、高額で物件を取得したりすることで引き起こされる価格高騰を防ぐことが狙いとされています。第二に、この政策は地元住民や永住者が住宅を手に入れやすくするための措置でもあります。外国人投資家との競争が減少すれば、市民がより手頃な価格で住宅を購入できる可能性が高まります。また、この政策は特定地域への影響も考慮されています。バレアレス諸島やコスタ・デル・ソルなど、外国人需要が特に高い地域では、この課税措置が市場価格を安定させ、地元住民への影響を軽減することが期待されています。この課税は不動産価格の最大100%に達する可能性があるとされており、EU域外からの住宅購入を抑制する大きな役割を果たすことが期待されています。
外国人による住宅購入
2024年上半期のデータによれば、外国人による不動産取引の平均価格は1平方メートルあたり2,249ユーロとなり、前年同期比で7.4%上昇しました。外国人による住宅購入は1.8%増加し(69,412件)、全不動産取引の20%以上を占めるに至っています。
国別では、イギリス人が8.4%(5,864件)と最も多く、モロッコ人(7.9%)、ドイツ人(6.8%)と続きます。さらに、ポーランド人、ウクライナ人、コロンビア人など住宅購入も近年では大幅に増加しています。一方、これまで脅威とされてきたロシア人の住宅購入は24.2%減少するなど、国によって傾向が異なります。最も高額な購入者は、スウェーデン人(1平方メートルあたり3,330ユーロ)、アメリカ人(3,247ユーロ)、ドイツ人(3,114ユーロ)の順となっています。地域別では、カンタブリア(6.5%上昇)、バレアレス諸島(14.2%)、ラ・リオハ(13.1%)、アンダルシア(11%)で特に顕著な価格上昇が見られました。
経済に悪影響?
スペイン政府の提案には賛否両論があります。一部の社会団体や市民活動家たちは、この提案を不動産投機抑制と公平な住宅アクセス実現への必要な一歩として歓迎していますが、一方で不動産業界からは強い反発があります。このような措置が国内外双方からの投資意欲を削ぐ可能性について警鐘を鳴らしており、経済成長にも悪影響を及ぼしかねないと主張しているのです。また政治的にも議論は分かれており、一部政党はこの制限措置をスペイン市民保護策として支持する一方で、他方では経済成長阻害策として批判しています。
今回提案された非居住域外国人による住宅購入制限措置は、大胆かつ挑戦的な試みと言えるでしょう。不動産市場への圧力軽減という点では一定の効果が期待できますが、外国人投資家が減ってしまうことに対する経済的な影響と対策についても同時に考えていく必要があると思います。また、この政策単独では十分ではなく、地元住民の住宅購入の選択肢を増やすためには公営住宅供給拡大や経済全体改善など他施策との連携も必要不可欠となるでしょう。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon