
イタリア事情斜め読み
米国関税に対抗措置、EUの「バズーカ」とは?EUのイタリアに対する懸念

| イタリアとドイツのアメリカ市場依存度
欧州連合(EU)とアメリカの貿易関係は、長年にわたり大きな影響を与え合ってきた。
イタリアとドイツのような製造業に強く依存している国々にとって、アメリカ市場は極めて重要な役割を果たしている。しかし、アメリカのトランプ政権下で始まった高い関税政策は、これらの国々にとって深刻な経済的挑戦となっており、特にアメリカ市場への依存度が高いイタリアとドイツは、貿易戦争における影響を強く受ける立場にある。
イタリアとドイツのアメリカ市場への依存度は非常に高い。
2023年のデータによると、イタリアはその輸出の約10.7%をアメリカに依存しており、ドイツもまた9.9%という数字を記録している。これらの国々のアメリカ市場への依存度は、フランス(7.3%)やスペイン(4.3%)に比べて非常に高く、関税による影響も相対的に大きい。特に、ドイツはその輸出額が他の欧州諸国を大きく上回っており、2023年にはアメリカに1570億ユーロ(約24兆859億円)以上を輸出している。
ドイツの自動車産業やイタリアの機械製品などがアメリカ市場で大きなシェアを占めており、これらの製品に対する関税引き上げが直接的な影響を及ぼすことになる。
アメリカ市場は、両国の製造業にとって非常に重要な収益源であり、その依存度が高いがゆえに、関税政策の影響を大きく受けるリスクも高い。
| アメリカの関税政策とイタリア・ドイツへの影響
アメリカの関税政策は、単なる税率の引き上げだけにとどまらず、アメリカ市場における需要そのものにも影響を及ぼす。特に製造業や輸出業にとって、アメリカ市場の需要が減少すれば、売上の減少や生産の縮小が避けられなくなる。ドイツやイタリアは自国の産業が高度な製造業に依存しているため、関税強化によって、直接的な損害を受ける可能性が高い。
例えば、ドイツの自動車産業は、アメリカ市場を重要な販売先としている。
しかし、アメリカが自動車に対して高関税を課すことで、ドイツの自動車メーカーは競争力を失い、結果として売上が減少する。
イタリアも同様に、機械類や製品をアメリカに輸出しており、これらの製品に関税がかけられることで、価格競争力が低下し、企業の収益が圧迫される。
さらに、アメリカ市場における関税強化は、単に製品の価格上昇を引き起こすだけでなく、アメリカに拠点を置く企業の調達先としての魅力を失わせることになる。
アメリカ市場での競争が厳しくなると、企業は代替市場を求め、EU諸国の輸出企業はその影響を受けることになる。特にイタリアやドイツのような製造業重視の国々では、こうした変化は重大な経済的影響を与える。
| EUの「バズーカ」とは何か?
「バズーカ」«bazooka» とは、特にアメリカや中国、ロシアなど、強大な経済を持つ国々からの圧力に対抗するためのツールとして作られた。EUは相手国に対して経済的な制裁や報復措置を行い、その結果、交渉を有利に進めることを目指したものである。
このような状況において、EUはアメリカとの貿易戦争に対抗するために、新たな手段を整備した。その名も「バズーカ」。
これは、EUの貿易戦争における圧力回避手段として、いわば最後の切り札となるべく設計された。正式には「Anti-Coercion Instrument(ACI)」と呼ばれ、EUやその加盟国に対して経済的な圧力をかける第三国に対してEUが取ることができる強力な対抗措置を指すという。
この手段は2023年12月から施行されているが、まだ一度も使用されていない。
EUやその加盟国の主権的選択肢を脅かす行動に対して、貿易や投資を通じて直接的な圧力をかけるためのメカニズムである。
具体的には、第三国がEUに対して貿易や投資を制限したり、経済的な圧力をかける場合に、この「バズーカ」が発動される。
EUは第三国に対して対抗するための手段を持ち、経済的に守られることになる。
| アメリカとの交渉における戦略
イタリアとドイツは、アメリカ市場との関係を維持するために、今後ますます柔軟な交渉姿勢を取る必要があるだろう。特に製造業に依存する両国にとって、アメリカ市場は単なる経済的な取引先にとどまらず、企業の成長にとって重要な柱となっている。そのため、関税戦争が激化することを避けるために、両国はアメリカとの関係を慎重に維持し、交渉においてはより柔軟かつ実利的なアプローチを取ることが求められる。
EU全体としても、アメリカとの貿易戦争を激化させないために、交渉を重視し、可能な限り対話を続けていく方針を取ることが予想される。欧州連合(EU)は、アメリカとの貿易戦争において交渉を続ける方針を維持している。アメリカは、EUからの鋼鉄やアルミニウム製品に25%の関税を課し、自動車には25%、EU産のすべての製品には20%の関税を課すことで、貿易戦争を引き起こした。しかし、欧州連合(EU)は交渉のレバレッジを確保するために、過去に行ったように対抗措置を準備している。
4月9日、水曜日、EU加盟国は、アメリカから輸入する製品に対して25%および10%の関税を課す対象として、21億ユーロ(約3,405億円)相当のアメリカ製品を選定する予定だ。
しかし、EUは「すべての選択肢をテーブルに載せている」と繰り返しており、製品に対する対抗措置だけでなく、アメリカのデジタルサービスや金融サービスにも対策を取る可能性がある。
| メローニ首相、米EU間の「ゼロ対ゼロ」関税撤廃を目指す
イタリアにおける米国の関税の引き上げや貿易障壁の強化は、製造業にとって致命的な打撃となり、経済に長期的な影響を及ぼすだろう。そのため、イタリアは、アメリカとの交渉において柔軟な姿勢を保ちつつ、経済的利益を守るための戦略を強化する必要がある。
アメリカとの貿易戦争が激化すれば、両国はより積極的に外交的手段を駆使して、貿易戦争の悪影響を最小限に抑える努力を続けるだろう。
米国の関税から企業を守るため、250億ユーロ(約4兆322億円)の資金を投入する。
ジョルジャ・メローニ首相は、米国のドナルド・トランプ大統領が欧州製品に課した関税の影響を緩和するために、PNRR(国別回復計画)およびコヒージョン基金の資源を再配分し、合計で250億ユーロを企業に提供することを提案している。
この目的で、首相はイタリアの主要な生産業者をイタリアの閣僚評議会議長(首相)官邸キージ宮殿に招集し、米国の関税問題に対処するための効果的な解決策を模索中である。
メローニ首相
「もしヨーロッパがこの時期を乗り越えようと、何もないかのように振る舞ったり、すべてを過度に規制しようとしたりすれば、単に生き残れなくなり、アメリカの関税以上の問題が生じるだろう」
と、警告した。
首相の目標は、来たる4月17日にワシントンで行われる米国のトランプ前大統領との会談で、両国間の「ゼロ対ゼロ」関税の実現を目指すことだ。
この提案は、米EU間の相互関税を撤廃することを目指しており、経済の不確実性が支配する中での重要な挑戦となる。
メローニ首相は、企業に対して「共同戦線を張る」ことを呼びかけ、イタリアの産業競争力を強化するための具体的な措置を講じる意向を示した。イタリア政府は、リカバリー計画の再調整を通じて、約140億ユーロ(約2兆2,620億円)を雇用促進や生産性向上のために投入する予定だ。
イタリア国内外での「メイド・イン・イタリー」のプロモーションを強化し、「新しい市場に進出して存在感を高めることが必要だ」とともに、国内市場での需要を強化することも必要だとメローニ首相は企業家たちに提案した。
EUの規制強化に対しては、メローニ首相は、ヨーロッパが対処すべき「重要な問題」として、内部市場の保護が挙げた。「中国やその他のアジア諸国がアメリカの関税を受けて過剰生産を行い、その影響が私たちの内部市場に及ばないようにすることが必要だ」と強調した。
EUはアメリカの動きに対抗するため、「バズーカ(大砲)」については、イタリア政府の希望は、この手段を使用せず、アメリカとの合意を目指して努力することを述べている。
「私はバズーカが使われないことを願っている」と、副首相兼外務大臣タジャーニは述べ、「私たちはアメリカと合意を得るために働かなければならない」と続けた。
このため、イタリアは一部のアメリカ製品に対する関税の引き上げリストの延期を求めていた。
| メローニ首相、4月16日にワシントンへ
メローニ首相のアメリカ訪問の予定がますます現実味を帯びてきており、4月16日にワシントンを訪れることが確認されている。
アドンコローニスの情報筋によると、パラッツォ・キージ(イタリア首相官邸)とホワイトハウスからの公式発表を待っている状況だ。
メローニ首相は、アメリカのトランプ大統領との対話が、イタリアおよびEUにとって有益だと確信している。たとえアメリカの金融危機によって激しい状況が続いている中でも、首相は、直接対話を通じて関税問題を解決する道を探ろうとしている。
そのため、首相は、4月19日にローマに到着する予定のアメリカの副大統領JD・ヴァンスと調整を行い、ワシントンでの会談日程を4月16日に設定する可能性が高い。この訪問は、EUが決定した報復関税の実施直後に行われる予定だ。
メローニ首相とアメリカ大統領ドナルド・トランプの会談は、予定されていた日程に基づき、4月16日に行われることになった。
この会談は、ジョディ・ヴァンス副大統領がイタリアに到着する2日前に実施されることになる。
メローニ首相のワシントン訪問は、関税問題を中心にしたものであり、長期間準備されてきた会談の議題が大きく変わることとなった。さらに、メローニ首相の訪問日は、EUがアメリカの関税に対する報復関税を実施する予定の翌日でもある。
メローニ首相、トランプの関税政策に対する戦略:「すべては交渉可能です」と語った。そこで、欧州内では、イタリアが独自の道を選ぶ可能性を懸念。欧州委員会は、4月15日にアルミニウムと鋼材に対する反関税を承認する予定で、さらに複雑で柔軟な「強制措置ツール」などの他の措置も検討されている。... pic.twitter.com/4QTICIy5Kw
-- ヴィズマーラ恵子 (@vismoglie) April 6, 2025
○イタリア野党からの批判
野党からは政府に対する批判が続いている。
民主党(PD)の党首エリー・シュラインは、「イタリアの株式市場で再び大きな下落があった日、メローニ首相はそれを軽視し続け、他のヨーロッパ諸国、特にサンチェス首相の政府は企業、労働者、家族を守るために強い対応をしています」と述べ、イタリア政府の対応の遅れを指摘した。
「私たちは、EUが強い対応を取って貿易戦争を回避するための交渉をサポートし、国内でも適切な対応を取ることを期待しています」と付け加えた。
| 欧州内のイタリアに対する懸念とEUの対応策
メローニ首相は、トランプの関税に対する対応策として、「すべては交渉可能だ」と強調した。
首相は、アメリカの大統領が提示する政策を再評価し、代替案を示すことによって、妥協点を見つけることができると信じている。しかし、このアプローチにはEU内でも懸念が広がっており、特にイタリアが独自に決定を下す可能性があることが不安視されている。
EUは、アルミニウムや鋼鉄に対する関税の対抗措置を4月15日に承認する予定であり、それに加えて、より包括的で柔軟な「強制措置」の導入も検討されている。この措置は、商業的な反応に加えて、財政的な対策や契約面での対応を可能にするもので、EU委員会に大きな権限を与えるものだ。
欧州委員会は、4月末に決定を下し、5月末までに措置を実施する予定だが、その間にイタリアが反応し、例えばギリシャ、ルーマニア、ハンガリーなどと共にブロック少数派を形成するのではないかという懸念がある。
EU内では、トランプ大統領は具体的な反応しか理解しないという意見が強く、効果的な反措置を取ることで、EUが交渉力を高め、最終的にアメリカとの妥協に至るべきだとの声が多い。一方で、メローニ首相は英国やオーストラリアとの連携を深めており、商業戦争の回避を求める立場で一致しているようだ。

- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie