イタリア事情斜め読み
伊・メローニ首相の誇りと2025年の決意
「すべてを完璧にすることは可能ですが、この2年半の間、私たちは自分自身を決して惜しまなかったので、私には後悔や後悔はありません。そして、私は恥じるべき選択をしたことは一度もありません。」
と、ジョルジア・メローニ首相はコリエレ・デッラ・セーラ紙「7」に、イタリアの指導者としての2年半を振り返り、イタリアの国際的な立場を強化しつつ、国内外の困難に立ち向かうイタリアの成長と自身の挑戦、未来のビジョンなどについてを語ったロングインタビューを紹介したい。
ジョルジャ・メローニ首相は、2022年10月22日にイタリアの首相として初めて女性が就任したことが注目されたが、それから2年半が経過した現在、彼女の政治スタンスとその実績については多くの議論を呼んでいる。
首相としての彼女は、しばしば「改革派」や「強硬派」としてメディアで取り上げられ、時に批判を浴びながらも、確固たる信念でイタリアの舵を取っている。
彼女自身が語るイタリアの内外の情勢や政策を振り返りながら、メローニ首相の政治哲学とこれからの課題について考察していきたい。
自信と誇りを持つリーダーシップ
メローニ首相は、過去の自分を「不利な立場」や「周囲に期待されていない存在」として政治の世界に足を踏み入れ、アンダードッグから政治家としてのキャリアを積んできたと述べる。
貧しい家庭からのスタートや、政治家としての出発点が不利な状況だったことを自ら語り、その中でイタリア初の女性首相に就任したことに誇りを持っている。
首相としての任期を振り返ると、彼女は自分が選択してきた政策に対する後悔は一切なく、「何もしなければ失敗はない(Solo chi non fa non sbaglia)」という古いことわざを引き合いに出した。直訳すれば、「何もしなければ失敗はない」という意味だが、メローニ首相が政治において「挑戦し続けた姿勢」と「後悔しない理由」を語り、イタリアを統治する上で、常に国益を最優先し、挑戦的な姿勢を貫いたことを強調していた。
| イタリア経済と雇用の改善
経済は確実に改善している
「私たちは投資家や市場からの信頼を取り戻した。イタリア国債の発行申請数は過去最高で、スプレッド(国債利回りの差)は就任当初に比べてかなり低くなり、株式市場も記録的な上昇を見せた。格付け機関も評価を引き上げた。私たちが政府に就任した当初、誰もが指摘した弱点が、今では強みとなっている。しかし、それがイタリアにとってすべてが順調だという意味ではなく、問題が解決されたわけではないが、方向転換は見られる」と、メローニ首相は自信を見せている。
その「方向転換」の例として、メローニ首相は、イタリアの雇用率が「千人隊遠征(Spedizione dei Mille)」以来最も高い水準に達したことを誇りに思っている。
Spedizione dei Milleは、1860年にイタリア統一を目指して行われたガリバルディの軍事遠征を指し、その後のイタリア国家の成長や変革を象徴するものとして使われる言葉で、メローニ首相はこの歴史的出来事を指して、長期的な経済成長の象徴として言及した。
メローニ首相: 「私たちは『スピリッツィオーネ・デイ・ミッレ』以来、最も高い雇用率を達成し、失業率は初めてiPhoneが発売された年から最も低い水準にあります。2024年第3四半期の最新のIstat(イタリア国立統計局)データは、この傾向を確認しており、雇用率は62.4%に達し、失業率は前の四半期に比べて0.6%減少しました。また、女性が率いる初の政府のもとで、女性の雇用率が過去最高となり、初めて1,000万人を超える女性労働者を達成したことに特に誇りを感じています。」と、過去最高の雇用率を示すという「転換」を表現した。。
| 政治的決断と外交戦略
ドイツとの協力強化を強調
「経済の競争ではなく共に支え合うべき」
メローニ首相は、現在のイタリア経済の好調を評価しつつも、「イタリアのマクロ経済データは良好だが、ドイツの現状を喜ばしく見るべきではない」と語り、両国の経済が密接に連携している点を指摘し、ドイツ経済の困難を喜ばしく受け止めることはないと述べている。
イタリアとドイツは、互いに深く結びついた経済関係を有する主要な製造業国である。製造業の再構築を支援するための新たな協力の機会を模索することの重要性を強調し、メローニ首相は両国間の協力を一層強化する必要があると語った。
世界で勃発している大きな2つの戦争と非常に不安定な国際均衡という最も困難な国際局面の一つでイタリアを率いているメローニ首相の外交政策で、特に注目すべきは、「対話と協力」の姿勢である。
イタリアがかつて持っていた伝統的な同盟関係を強化しつつ、これまでそれほど関係が緊密ではなかった国と議論のチャンネルを開き、新たなパートナーシップを築いていることは、彼女が言うように「多様な選択肢を持つことの重要性」を示していると言える。
イタリアの地政学的および地経学的予測を多様化することを可能にする大きな付加価値で、特にインドとの新たな経済パートナーシップは、イタリア経済にとって大きな成果である。
数年前まではイタリア企業のインドへの立ち入りすら禁止されていなかった。イタリアとインドの関係は完全に変わり、経済相互接続からバイオ燃料の開発まで、これまで未踏の分野で大きなチャンスがイタリアに提供されることに成功している。
これはイタリアが従来持っていた経済的な枠組みを超えて、グローバルな舞台での影響力を強化する意味でも重要である。
英キア・スターマー新党首との協力関係を強調
移民問題や治安対策での協調が進展
メローニ首相は、英国のスナク元首相とは良好な関係を築いていたが、現在はイギリス労働党のキア・スターマー党首とも非常に良い関係を維持していると語った。
特に、移民問題に関する協力が進んでおり、イタリアとイギリスの両国は密接に連携している。
メローニ首相は、移民の流れを管理することや、違法移民に対する対策を強化する必要性についてスターマー党首と一致していることを強調した。
「移民の流入を管理すること、特に違法な大量移民に対処することは、ヨーロッパ全体、さらにはEUの枠を超えて影響を及ぼす現象である」とメローニ首相は述べた。
スターマー党首とは、密輸業者との戦いを強化し、警察の協力を深めること、また、強制送還に加えてボランティアによる支援帰還の取り組みを進めることに賛同している。
さらに、イタリアがアルバニアとの協定を結び、EU外でありながらイタリアおよび欧州の法廷管轄下で難民申請を処理するという革新的な解決策を試みている点についても、スターマー党首と意見が一致している。
仏マクロン大統領との関係改善を強調
誤解を払拭し、建設的な対話を重視
メローニ首相は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との関係について、これまでにさまざまな誤解が広まったことを指摘した。
「私とマクロン大統領の関係については、さまざまな憶測が飛び交っている。中には、私たちが政府の責任を担うリーダーとして対話を行うのではなく、まるで子供のようにいたずらをし合っていると描く人もいた」と述べた。しかし、メローニ首相はそのような報道は事実ではないと強調した。
イタリアとフランスは、欧州の重要な柱であり、多くの問題で利害が一致している一方で、意見が異なることもある。
メローニ首相にとって重要なのは、互いに対話を続けることであり、時には率直に、遠慮せずに意見交換を行うことだと言う。「イタリアは、このアプローチのおかげで再び権威を取り戻し、他国からも真剣に耳を傾けられるようになった」と語った。
米トランプ発言に賛同―ウクライナ問題での立場を再確認
ロシアの侵略に対するイタリアとアメリカの共通の立場
メローニ首相は、トランプ前米大統領の発言に注目し、自らの立場と一致していることを強調した。
トランプ氏がウクライナ問題に関して述べた言葉を引き合いに出し、「プーチンはもう負けたのだから、平和を目指すべき時だ」と語ったことについて、メローニ首相は「これは私がイタリアを代表して何度も繰り返してきたことと全く同じだ」と語った。
彼女は、イタリアとして常に「ロシアに対して停戦状態を強制しなければ、平和の可能性はない」と主張してきたとし、「ロシアがウクライナ侵攻を続ける限り、平和の道は開けない」と強調している。
この立場は、トランプ氏の発言とも一致しており、イタリアとアメリカの共通の立場として確認されたようだ。
| イタリアの安全保障と投資のバランスを強調
「国家の利益」を最優先に、企業の投資と安全保障を慎重に調整
イーロン・マスク氏との個人的な関係
彼を「現代の天才」として称賛しつつも、彼との関係を単なる経済的なものとしてではなく、イタリアにとって有益な対話の一環として捉えていると言及した。
彼女は、政治とビジネスを分けて考えることの重要性を強調し、イタリアが直面している国際的な競争において、戦略的な投資と安全保障のバランスを取るべきだと考えている。
メローニ首相は、イーロン・マスクがイタリアで進める事業に関して、経済的な影響と安全保障のバランスを取る重要性を強調し、「私はイタリアへの投資を歓迎しているが、すべての投資を国家の利益という視点で評価している」と述べ、政治的な思惑や投資家との個人的な関係ではなく、あくまで国家の利益を基準に判断していることを強調した。
「これは他の国々が行っていたことではない」とし、イタリアがどの企業からの投資でも受け入れるものの、安全保障に関する懸念をしっかりと考慮する姿勢を示した。
投資に対するアプローチは、名前や企業の規模に関係なく、全てにおいて慎重な評価を行う必要があると述べた。
インタビュー中で、「現在、あなたは世界のリーダーの中で唯一の女性ですが、誰かを模範としているのでしょうか?」の質問へは、
メローニ首相: 「いいえ、誰も。私は各リーダーがそれぞれ特有のアイデンティティを持っていると考えています。歴史の中で、責任ある大きな役職を担った女性は何人もおり、その中には特定の側面を強調できる人物もいます。しかし、私は単純に、自分自身であり続けることを目指しています。」
と答え、他の女性リーダーを模倣するのではなく、自分自身の独自のアイデンティティを大切にしていることを強調している。この部分は彼女が自信を持ち、他者を模範にせず、自分の道を歩んでいる姿勢を示している重要な発言であった。
| 国内政治における論争と未来のビジョン
イタリア国内では、メローニ首相が率いる「イタリアの同胞(フラテッリ・ディターリア)」が抱える内部の論争や、同じく右派勢力である「同盟(レーガ)」などとの調整が問題視されることも多い。
しかし、彼女はこれを「家族内の議論」に過ぎないとし、基本的に全体としての方向性を維持していることを強調した。イタリア政府内の意見の相違はあっても、最終的には国家の利益を守るために合意形成ができると自信を持っている。
また、野党との対立も避けがたい。
特に左派の「民主党」党首エリー・シュラインとの対立がしばしば報じられ、その反発が強いが、メローニ首相は「政党間の対立は民主主義にとって自然なこと」であり、選挙で勝つのは国民の意思であると冷静に受け止めている。
| メローニ首相の決意
未来に対するメローニ首相のビジョンは非常に現実的であり、彼女は「将来のことは神に任せる」と語りつつ、今現在を最善を尽くして生きることに重きを置いている。
彼女の目標は、イタリアをより良い国にすることであり、10年後や20年後のことを考えるよりも、目の前の課題に全力で取り組むことが重要だと信じている。その姿勢は、リーダーシップを発揮し続ける上で大きな力となっている。
ジョルジャ・メローニ首相の2年半にわたる政権運営は、常に挑戦と成果の繰り返しであり、その成果には国内経済の回復や国際的な影響力の拡大が含まれている。
彼女は、リーダーとしての確固たる信念と共に、時には困難な決断を下しながらも、常にイタリアの未来を見据えている。
内外のさまざまな問題に立ち向かいながらも、その先にあるイタリアのより良い未来に向けて邁進している彼女の姿勢は、今後も多くの注目を集めるだろう。
「イタリア政府官邸公式YouTubeチャンネル、2024年12月24日 - ジョルジャ・メローニ首相の年末のご挨拶より」
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie