World Voice

イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

メローニ首相を巡る捜査とアルマスリ事件の法的影響:収賄、職権乱用、助成、横領の観点から

イタリアの公共放送TG4、Rai公式Youtubeチャンネルより-メローニ首相は、自らのSNSアカウントに動画を公開し、「刑事告発通知」を見せるとともに、送還されたリビア人容疑者のケースについて振り返った。通知の受け取り対象には、ノルディオ法務大臣、ピアンテドージ内務大臣、マンタヴァーノ首相補佐官も含まれている。

メローニ首相が、アルマスリ事件で「助成」「横領」の罪で捜査を受けているという。イタリアで、司法との衝突と政治的影響は大きい。

「政治的攻撃」として反発、司法改革を進める意志を強調

アルマスリ事件が引き起こした政治的な波紋は、イタリア国内外で大きな注目を集めている。

アルマスリは、リビアの戦争犯罪者であり、彼の送還を巡ってメローニ首相は、国家安全保障を理由にリビアへ送り返す決定を下した。この決定が、国際的な圧力や司法の反発を引き起こし、最終的には首相への捜査につながった。

メローニ首相は、この送還が「国家の安全保障に関わる重大な判断」であり、国家の利益を守るための決定だったと強調している。このような背景から、彼女は「司法がこのような政治的な決断に干渉することは、全く受け入れられない」と述べ、司法との対立を強調している。

この事件は、単なる個人の問題にとどまらず、イタリア政府の高官たち、特に首相自身を含む内閣メンバーに関わる深刻なスキャンダルとして、政治や法制度に深い影響を与える可能性がある。

アルマスリ事件の背景には、リビア内戦中に戦争犯罪を犯したとして国際刑事裁判所(ICC)に起訴されていたオサマ・アルマスリが、イタリアに入国後、わずか48時間で釈放され、その後リビアに強制送還されたという事実がある。

イタリア政府は、アルマスリの送還決定を「国家の安全保障に関わる重大な理由」に基づいて行ったと説明しているが、この決定に疑念を抱く声が上がり、最終的にメローニ首相やその他の政府高官に対して、収賄と職権乱用の疑いがかけられ、捜査が始まった。

この事件を深く掘り下げるとともに、イタリアの刑法における「助成(favoreggiamento)」および「横領(peculato)」の罪についても詳しく説明してみる。

アルマスリ事件に関連する可能性のある法的問題を解説

アルマスリ事件の概要とその重要性

オサマ・アルマスリは、リビアのトリポリで治安部門の司令官として知られる人物である。国際刑事裁判所(ICC)の文書によると、2015年以降、彼の指揮下で移民34人に対する拷問や殺害された戦争犯罪と未成年の女児がミッティガのリビア刑務所でレイプされた強姦罪。

1月6日〜18日:アルマスリのヨーロッパ訪問

  • 1月6日:アルマスリはリビアのトリポリを出発し、ロンドンへ向かう。
  • 1月13日:ロンドンからブリュッセルに移動し、その後、ドイツに向かう。車での移動中、モナコで警察のチェックを受けたが、問題なく通過。
  • 1月16日:ドイツに向かう途中、モナコで警察に停止されるも、再び通過し、最終的にトリノに到着。
  • 1月18日:国際刑事裁判所(CPI)は、アルマスリに対してリビアのミッティガ刑務所での戦争犯罪と人道に対する罪で逮捕状を発行。この事件は、2011年2月に刑務所内で34人を殺害し、1人の幼児を強姦したという罪状に関連している。

1月19日:アルマスリ、イタリアのトリノで逮捕され、拘置される。

1月21日:釈放と送還

ローマの控訴裁判所は、アルマスリの逮捕が手続き上の誤りであるとして釈放を決定。国際刑事裁判所との事前連絡が取られていなかったことが理由である。その後、アルマスリはイタリア政府の特別便でリビアに送還される。

1月23日:政府の説明

内務大臣マッテオ・ピアンテドージは、アルマスリが釈放後、「国家の安全保障上の理由」でリビアに送還されたと説明。また、送還はアルマスリの「危険性」に基づくものであると述べた。

1月28日:メローニ首相へ検察より通知が届く

1月28日、メローニ首相はソーシャルメディアを通じて、アルマスリ事件に関連してフランチェスコ・ロヴォイ検察官から「助成と横領」の容疑で捜査対象となったことを発表。また、法務大臣カール・ノルディオ、内務大臣マッテオ・ピアンテドージ、そして副大臣アルフレド・マントヴァノも捜査対象となったことを明らかにした。

1月29日:政府の情報提供の中止

1月29日、予定されていた内務大臣ピアンテドージおよび法務大臣ノルディオの議会での情報提供がキャンセルされた。また、両大臣はすでに下院および上院の議長に非公式に通知を行ったとされている。

アルマスリに対して逮捕状を発行し、彼の逮捕を求めていたが、アルマスリはイタリアに到着した後、48時間以内に解放され、その後リビアに強制送還されることとなったのだ。

検察は、司法大臣ノルディオが逮捕の不正を訂正できたにもかかわらず、それを行わなかったとして助成の容疑をかけている。また、国の飛行機を使ってアルマスリを送還したことが、公的資金の不正使用、すなわち横領に該当する可能性があるとされている。

Tg2000 公式YouTubeチャンネルより-アルマスリ事件、何が起こったのか、そしてなぜ政治的対立の中心になっているのか

この事実が問題視され、イタリア政府の対応に疑念を抱く人々が増えていった。

メローニ首相は、アルマスリの送還が「国家の安全保障」に基づいて行われたと説明しており、政治的な圧力や国際的な問題を避けるために最善の判断を下したと主張している。

しかし、この送還決定に対する疑念が強まる中で、メローニ首相をはじめとする政府高官たちに対する捜査が行われることとなった。

特に注目されるのは、左派の元政治家で弁護士のルイジ・リゴッティが提出した告発によるものである。リゴッティは、アルマスリの送還において不正があったと主張し、その調査を求めた。

野党は政府がハーグの逮捕状を無視したと批判しているが、リビアとの移民管理に関する協定は2017年に当時のPD(民主党)のミンニティ大臣によって結ばれ、2020年と2023年にも更新されていることを指摘している。ミンニティ氏は、2016年から2018年まで、マッテオ・レンツィ首相およびその後のパオロ・ジェンティローニ首相の下でイタリアの移民政策を強化するために注力した当時の内務大臣である。リビアとの協定は、異なる政党が政権を担っている間にも継続されていた。野党は、イタリア右派政府の刑事責任について明らかにするよう求めている。

メローニ首相は、この捜査を「非常に深刻な、前例のない行動」として非難しており、今後も自身の政治路線を貫く意志を示している。彼女は、司法機関が政治的な動機で行動していると考えており、その影響を受けずに司法改革を進める意志を示している。

捜査の焦点:収賄と職権乱用

今回の捜査でメローニ首相をはじめとする政府高官にかけられている主な疑いは、収賄と職権乱用である。収賄は、公務員が職務上の権限を利用して金銭や利益を得る行為を指し、職権乱用は、公務員がその職権を不正に行使することを意味する。

アルマスリの送還に関して、捜査当局は政府高官が不正な利益を得た可能性を指摘している。特に、アルマスリがイタリアに到着した際、国際刑事裁判所からの逮捕状が正式に通知されなかったため、イタリアの裁判所は彼を拘束しなかったという。

アルマスリは一時的に自由な身となり、その後リビアに送還されることとなった。この不適切な手続きが、送還を支持する政府高官たちに対する不正な意図を疑わせる根拠となっている。

メローニ首相はこの送還決定が国家の安全保障に関わるものであると強調しており、その理由が政治的、または経済的な圧力に基づいていたのではないかという疑念も浮上している。

政府高官が自身の利益を守るために職権を乱用した場合、これが収賄や職権乱用として処罰される可能性が高い。

メローニ首相の司法からの「警告通知」への反応

今回の捜査は、メローニ首相への「警告通知」がきっかけで始まった。午後2時に通知を受け取ったメローニ首相は、その内容に強く反発し、「これは単なる必要な手続きではなく、意図的な仕掛けだ」と考えている。メローニ首相は、イタリア政府内の他の高官たちと共に、これを司法による「報復行為」と見なしている。

首相とその支持者は、この捜査が政府の司法改革に対する報復であると感じており、特に「司法改革の進展を阻止しようとしている」との認識を持っている。メローニ首相は、「司法を改革するために進めている政策が、司法機関内で不満を生み、それが今回の捜査に繋がったのだろう」とも述べている。

イタリアの法制度では、政府高官が職務に関連して犯罪を犯した場合、その捜査結果を閣僚裁判所に送付することが求められている。

メローニ首相や他の政府高官に対する捜査が進展した場合、閣僚裁判所で審理が行われることになる。捜査は90日以内に進展し、その結果次第で捜査が継続されるかどうかが決まる。

この捜査が進み、もしメローニ首相や他の政府高官に法的責任が問われることになれば、イタリア政治において重要な転換点が訪れることとなるのだ。

しかし、メローニ首相は捜査に対して公然と反論しており、「脅迫には屈しない」「これはイタリアが良い方向に進むことを妨げようとする勢力の攻撃である」と述べ、引き続き自らの政治路線を貫く意向を示している。

メローニ首相が「私は脅迫に屈しない」と語った言葉は、彼女の政治キャリアの中で繰り返し使われてきたフレーズであり、今回もその言葉を掲げて反撃した。首相は、イタリア国内の一部の司法機関が「政治的、イデオロギー的に偏っており、私を司法の道具で排除しようとしている」と述べ、この捜査が「政治的攻撃」であると断言した。

この事件は、イタリア国内だけでなく、国際的にも注目されており、イタリア政府がどのように立ち回るのか、また、メローニ首相がどのように政治的なプレッシャーに対処するのかが大きな焦点となる。

イタリアにおける「助成(Favoreggiamento)」と「横領(Peculato)」の罪

アルマスリ事件の背景を理解するためには、イタリアの刑法における「助成(favoreggiamento)」と「横領(peculato)」の罪についても知っておくことが重要である。これらの罪は、特に政府関係者が関与する場合、政治的なスキャンダルを引き起こす可能性があるため、今回の事件にも関連してくる。

助成(Favoreggiamento)とは

イタリアにおける「助成(favoreggiamento)」とは、犯罪を犯した者を助けたり、隠したり、逃亡を助けたりする行為を指す。具体的には、犯罪者が警察に追われているときにその逃亡を手助けする行為や、犯罪の証拠を隠す行為などが含まれる。このような行為によって、犯罪者が罰を免れることを助けることになる。

イタリア刑法第378条(Favoreggiamento)では、犯罪者を隠蔽したり、逃亡を助けたりする行為に対して罰が課せられることが定められている。刑罰は、原則として犯罪者が受ける刑罰の半分程度の期間、懲役または罰金となる(状況によって異なる)。

今回のアルマスリ事件においても、もし政府高官たちがアルマスリを不正に逃がしたり、送還の手続きを不正に進めたのであれば、助成に該当する可能性がある。

横領(Peculato)とは

「横領(peculato)」は、公務員などがその職務上の立場を利用して、公的な財産を不正に自己のものとして持ち去る行為を指す。公務員が管理している公的財産を不正に流用する行為は、特に厳しく罰せられる。

イタリア刑法第314条(Peculato)には、公務員が公的財産を不正に横領した場合、懲役刑が科されることが記されている。懲役2年以上が基本となり、状況に応じて長期間の懲役刑や罰金が課せられることもある。

アルマスリ事件においては、もし政府関係者がアルマスリの送還に関して不正な利益を得た場合、それが横領に該当する可能性がある。

司法改革の行方

今回の事件は、イタリアの司法改革に対する新たな議論を巻き起こしている。

メローニ首相は、今回の捜査を機にさらに強い立場で司法改革を進める意向を示しており、その過程で政府内部の団結をさらに強化しようとしているところである。

政治的な対立が深まる中、司法改革がどのように進展するかが今後の焦点となり、司法改革を進めることで政治的な干渉を排除し、法の支配を強化しようとしているが、司法機関内には改革に反発する勢力もある。その対立が今後の政治的な争点となる可能性が高い。

アルマスリ事件は、イタリアの政治において大きな波紋を呼んでおり、今後の展開が注目される。メローニ首相をはじめとする政府高官に対する捜査は、イタリアの法制度や政治のあり方に深い影響を与える可能性がある。

「助成」と「横領」といった罪がどのように適用されるのかも、この事件の行方に大きな影響を与える。

司法改革と政府の立場が対立し、政治的な議論が激化する中で、首相は自身の立場を守るために戦い続けるだろう。アルマスリ事件を巡るこの捜査が、イタリアの政治に与える影響は計り知れない。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ