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ヴィズマーラ恵子|イタリア

イタリアのミラノ・コルティナ冬季オリンピック開幕まで1年を切った現状

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2026年2月6日に開幕する大会は、イタリアで3度目となる冬季五輪である。1956年のコルティナ大会、2006年のトリノ大会に続く開催だ。

大会の準備状況について、特筆すべき点がいくつかある。まず、インフラ整備の進捗状況である。

総額34億ユーロ(約5,542億円)を投じて94の関連工事が進められている。そのうち44件が競技施設、50件が道路などのインフラ整備となっている。現時点で6件が完了し、40件が工事中、40件が設計段階、8件が入札段階である。

最大の注目点は、コルティナのボブスレー競技場の建設である。
3月までに予備承認を得る必要があり、これが間に合わない場合は米国のレイクプラシッドでの競技実施というプランBに移行せざるを得ない。
工事は現在、予定より前倒しで進んでいるとのことである。

ヴェネト州知事のルーカ・ザイア氏は、この施設について興味深い見解を示している。

古い競技場跡地の環境改善という側面も持ち合わせており、856本の木を伐採する必要があったものの、代わりに1万本を植樹する計画だという。また、パラボブスレーへの対応も視野に入れており、将来的な活用も見据えている。

経済効果についても、具体的な試算が示されている。サピエンツァ大学、ボッコーニ大学、カ・フォスカリ大学の共同研究によると、GDPを1.5ポイント押し上げる効果があるとされる。また、バンカ・イフィスの調査では、大会前後で53億ユーロの経済効果が見込まれている。

大会期間中は200万人の観客動員が予想され、世界35億人がテレビ観戦すると見込まれている。特に、アメリカや中国からの観光客が多く訪れると予測されている。ヴェネト州の現在の年間観光客数7300万人の内、66%が外国人であることからも、インバウンド需要の高さが窺える。

大会運営面では、ボランティアの応募が予想を上回っている。必要数の2倍となる約7万人の若者から応募があり、大会への期待の高さを示している。

インフラ整備の遅れや費用増大といった課題はあるものの、大会組織委員会のヴァルニエCEOは「イタリアと国民は素晴らしい大会を実現できる」と自信を示している。この大会は、1956年のコルティナ大会から70年を経て再び同地を舞台とする。

当時、コルティナは地元の富裕層しか知らない場所だったが、オリンピックを機に国際的なリゾート地として発展した。
今回の大会も、開催地域に新たな発展をもたらすことが期待されている。単なるスポーツの祭典としてだけでなく、地域の発展や経済効果、そして環境への配慮まで含めた総合的な視点で準備が進められているのが、この大会の特徴であると言えるだろう。

会場整備に関して特筆すべきは、ミラノのサンタ・ジュリアに建設中のパライタリアである。

これはイタリア最大の室内アリーナとなる予定で、アイスホッケーの主会場として使用される。この施設は民間資金で建設されており、シミコ(インフラ整備会社)の管轄外となっている。

一方、ロー見本市会場には、スピードスケートとアイスホッケーのための仮設施設が設置される。プレダッツォのジャンプ台は夏までに完成予定で、ラーゴ・ディ・テゼロのクロスカントリーコースは来年のツール・ド・スキーで最終調整が行われる。

アンテルセルヴァのバイアスロン会場は既に改修を終え、2026年のワールドカップは大会直前となるため開催を見送る。コルティナのトファーネ・オリンピアも3週間前に女子ワールドカップを無事開催しており、準備は順調である。また、1956年大会で使用されたコルティナの歴史的なアリーナもカーリング会場として改修された。

大会の機運醸成に向けた取り組みも始まっている。4月14日には、大阪万博の日本館とミラノで同時に聖火トーチとパラリンピック聖火トーチが公開される。その後、メダルとスローガンの発表が予定されている。

運営面での課題として、治安対策がある。ザイア州知事は、組織犯罪対策局(DDA)と連携し、工事への不正介入を防ぐ体制を整えている。透明性と合法性を重視し、オープンミラノコルティナ2026というデジタルプラットフォームを通じて情報公開を行っている。

また、警備要員の宿泊施設確保も課題となっている。ミラノコルティナ財団が対応を進めており、オリンピック選手村の一部を活用する可能性も検討されている。

オリンピック選手村については、当初は大会後も活用する計画だったが、現在は仮設施設として解体する方針に変更された。ただし、2028年の冬季ユースオリンピックでも施設が必要となるため、最終的な活用方法は地元自治体と協議が続けられている。

輸送インフラについては、ソンドリオの南バイパスとボルミオのロータリー整備が優先されている。これらはミラノとヴァルテッリーナ地域を結ぶ重要な交通路で、116個のメダルの内34個が争われる同地域へのアクセス改善が急務となっている。

リヴィーニョのスポーツエリアは、3月にフリースタイルスキーのワールドカップで試験運用される。ジャンプとモーグルのコースは12月に完成しており、現在はスノーパークの工事が進められている。ここではビッグエア、ハーフパイプ、スロープスタイル、クロスの競技が行われる予定だ。

ザイア州知事は、コルティナの空港建設についても言及している。地元の反対はあるものの、ドッビアーコの軍用空港の活用を含め、アルプス地域の空の玄関口として検討する必要性を指摘している。

大会組織委員会のヴァルニエCEOは、最大の懸念として、新型コロナウイルスのようなコントロール不能な事態の発生を挙げている。しかし、大会計画には最悪のシナリオと対応策が織り込まれており、準備されている範囲内の課題については自信を示している。

ミラノ・コルティナ冬季五輪は、インフラ整備や運営面で課題はあるものの、着実に準備が進められている。

大会を通じた地域発展への期待は高く、特に若い世代の積極的な参加意欲は、大会の成功を予感させるものである。これまでのイタリアでの五輪開催経験を活かしつつ、新たな挑戦に取り組む姿勢が見て取れる。大会まで残り1年、準備の進捗を引き続き注視していく必要があるだろう。

| ミラノ・コルティナ冬季五輪の聖火リレー

聖火リレーの計画も発表された。オリンピックでは1万1人のランナーが63日間かけて1万2000キロを走破する。2025年11月26日にギリシャのオリンピアで採火された聖火は、12月6日にローマに到着。その後イタリア全土を巡り、2026年2月6日のミラノ・サンシーロでの開会式を迎える。

パラリンピックの聖火リレーは、2月24日に英国ストーク・マンデビルで採火され、11日間で2000キロを走破。3月6日のヴェローナ・アレーナでの開会式へと向かう。

組織委員会は2025年2月12日、サンレモ音楽祭の場で聖火ランナーの公募を開始し、新たな詳細が明らかになった。

オリンピックでは1万1人、パラリンピックでは501人のランナーを募集する。
その条件は2011年12月5日以前の生まれであることだ。各ランナーには、自身を紹介するストーリーと、この歴史的な瞬間に参加したい理由を語ってもらうことになる。

組織委員会のアンドレア・ヴァルニエCEOは、「聖火リレーは、イタリア全土を巻き込む素晴らしい冒険となる」と述べている。
ランナーたちは単なる聖火の運び手ではなく、オリンピック・パラリンピックの価値を伝えるメッセンジャーとしての役割を担うのである。

オリンピックの聖火は2025年11月26日、ギリシャのオリンピアで採火される。12月4日にローマに到着し、6日から63日間かけて、イタリアの全110県を巡る1万2000キロの旅が始まる。クリスマスにナポリ、年越しをバーリで迎え、1月26日には1956年大会から70年ぶりにコルティナダンペッツォを訪れる。そして2月6日、ミラノのサンシーロ競技場での開会式を迎えるのである。

サンレモ音楽祭では、イタリアフィギュアスケート界の名手カロリーナ・コストナーが特別ゲストとして登場し、自身も聖火ランナーとして参加することを発表した。

一方、パラリンピックの聖火は、パラスポーツ発祥の地である英国ストーク・マンデビルで2月24日に採火される。

その後11日間で2000キロを走破し、トリノ、ミラノ、ボルツァーノ、トレント、トリエステの5都市で「フレイムフェスティバル」を開催。
3月3日にコルティナダンペッツォで聖火が一つに統合され、ヴェネツィア、パドヴァを経て、3月6日のヴェローナ・アレーナでの開会式へと向かう。

さらに、サンレモのサンタテクラ要塞では「サンレモからミラノ・コルティナ2026へ」と題した展示も開催されている。歴代の冬季五輪の聖火トーチや、RAIテレビが所蔵する過去大会の映像などが展示され、イタリア冬季スポーツの歴史を振り返る機会となっている。大会に向けた機運醸成は、着実に進んでいるのである。

Rai TG4イタリア公共放送公式YouTubeチャンネルより「ミラノ・コルティナ2026の大使、オリンピックの聖火の旅の公式アンバサダーに就任のカロリーナ・コストナーさん」

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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