
パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
シャンパン・ワインへの200%関税と想像以上のフランスの軍事化

パンデミックによる衝撃的なロックダウンが発表された日から5年という歳月が経ちました。突然、目に見えないウィルスによって、世界中が不安と恐怖に怯え、外出さえままならないようになった出来事は、今でも忘れることはできません。多くの店舗や公共施設はクローズになり、ほぼほぼ国中の機能がストップしてしまう事態でした。毎日、報道される感染者数や死亡者数や病院などの医療体制が崩壊していくのを見つめながらも、窓の外から途切れなく聞こえてくる救急車のサイレンの音。医療崩壊が起きて、トリアージュといわれる命の選別を行わなければならない状況に正体のよくわからないウィルスによって多くの人々の命が失われていくことに憤りと恐怖を感じたことを覚えています。
しかし、その時、同時に命を奪っていくのが目に見えないウィルスなどではなく、戦争のように、人が人の命を奪う状況であった時の恐怖は計り知れないものだろうとも感じていたのです。
それが、ようやくパンデミックがおさまりかけてきたと思ったと同時に今度はウクライナでの戦争が勃発してしまったのですから、カタチを変えたとはいえ、さらなる恐怖と緊張状態が継続されることになったわけです。ウクライナとロシアの紛争に関しては、フランスでは実際に戦争が開始される前からマクロン大統領がプーチン大統領を訪れて長時間にわたる説得などを行っている様子が報道されていたので、フランスは直接の当時国ではないながらも、ロシアの報復対象として核ミサイルの砲撃先にパリが指定されている様子なども流れ、一時は国民がヨウ素剤の心配をするほどの緊張状態にありました。
ウクライナ戦争開始からも早や3年が経ち、アメリカの政権が変わったことによって、フランスは一時の緊張状態が戻ったというよりも、さらに具体的な軍事化へ加速する動きが目に見える(といっても報道でということですが)ようになってきています。
マクロン大統領が国民向けに行った演説から・・
振り返ってみれば、過去のマクロン大統領の発言等を見てみると、2022年4月にマクロン大統領が再選して以来、彼は、8月の段階で、「我々は豊かさの終焉の時を生きている」と、これからの世界を生き抜いていくことの厳しさを語っています。その後、フランス国内は、年金問題などで、国内が大荒れになった時期、また、欧州議会選挙を発端に、まさかの国民議会解散から総選挙後、パリオリンピックを挟んで、ようやく指名された新首相がわずか3ヶ月で内閣不信任案が可決して首相が退任、政府自体がガタガタになり、新年までに翌年の予算が間に合わない事態に陥っていました。
ところが、アメリカのトランプ大統領が就任して以来、ウクライナを始めとする世界的な雲行きが怪しくなり始め、トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の交渉決裂から、フランスは、一気に、よもや第3次世界大戦?と不安になるような報道が目立ち始めました。しかし、マクロン大統領はすでに、1月20日のトランプ大統領就任式が行われたのち、1月中には、「フランスは2030年までに現役軍人を21万人、予備兵を8万人に増強する」と発表していました。
直近のマクロン大統領の演説は、国民の不安に応えるという趣旨で、いつもの20時からの全国放送で行われましたが、これからのフランスの姿勢を説明するもので、これをあらためて注意深く聞きなおしてみると、なるほど、フランスはこういう経緯で、こういう理由で、こういう方向に進もうとしているのだということがわかります。
この演説はウクライナとアメリカの交渉が決裂し、アメリカがウクライナへの支援を一時停止することを発表した直後のことなので、若干、現況には、そぐわない点もありますが、大筋では、変わっていません。
マクロン大統領は、この演説で、「私たちの繁栄と安全はより不確実なものとなっており、我々は新しい時代に入りつつあると言わざるを得ない」、「もし、ある国がヨーロッパの隣国を何の罰を受けずに侵略できるのであれば、だれも何の確信を持てず、もはや我々の大陸の秩序や平和は保証されなくなる」、「ロシアはすでにウクライナ紛争を世界規模の紛争へと変えてしまった」、「ロシアは再軍備を続けており、この目的に予算の40%以上を費やし、2030年までに兵士30万人、戦車3,000台、戦闘機300台を追加で増員する計画を目論んでいる。このような状況でロシアがウクライナで止まると誰が信じられるだろうか? 今後、何年にもわたり、ロシアはフランスとヨーロッパにとっての脅威となっている」と説明し、「この危険な世界に直面して、傍観者でいることは狂気の沙汰だ!明日の解決策は昨日までの習慣であってはならない!」、「ウクライナの安全のため、フランスの安全のため、ヨーロッパの安全のために我々はこれから多くのことを決断していかなければならない」と強く訴えました。
「ウクライナ人が自らのために、そして私たち全員のために、ロシアと確固とした和平交渉を行えるようになるまで、私たちは、ウクライナを支援し続けなければならない。ウクライナの降伏は真の平和には繋がらない。停戦という一時的な手段はあまりに脆弱なのは、2014年にロシアがミンスクで行った停戦交渉を尊重せず、停戦を維持できなかった歴史によるもので、我々は、もはやロシアの言葉をそのまま信じることはできないからだ!」
「このため、もし和平協定が締結されたら、我々はウクライナが再びロシアに侵略されないために準備しなければならない。これは、ウクライナへの長期的な支援と欧州軍の派遣も含まれる可能性がある」、「欧州軍は今、戦うつもりはなく、最前線で戦うつもりもなく、和平協定が尊重されるためにそこにあるものとなる」
「ウクライナの和平が速やかに達成されるか否かにかかわらず、ロシアの脅威を考慮し、欧州諸国はより効果的に自国を防衛し、平和のために、防衛体制を強化しなければならない。この点において、われわれはNATO及び米国とのパートナーシップに尽力していくが、同時に防衛と安全保障の問題における独立性を強化していく必要がある。ヨーロッパの安全はモスクワやワシントンで決められる必用はない!」と主張。
「欧州諸国は、自国を防衛し、保護する準備をより整え、自国で必用な装備を欧州で共同生産し、協力して世界の他の国々への依存を減らすことが必用で、フランスも防衛費のための追加投資を増税なしで行うこと」を発表しました。
また、同時にフランスの核抑止力についても言及しており、「我々の核抑止力は、我々を守ってくれている。我々は、この核抑止力により、主権を持ち、常に欧州の平和と安全を維持する役割を果たしてきたし、今後はこの核抑止力によって大陸の同盟国を守る戦略的議論を開始する」といわゆる核の傘についても触れています。
この演説を私は、半分は頼もしい気持ちと、あまりにやる気満々、自信たっぷりな感じに不安も覚えたのですが、この演説は、一部、右翼からは、「恐怖を弄んでいる」などと批判の声も上がっているものの、国民からは、「増税なしに防衛費を増加する」の部分が功を奏したのか、概ね受け入れられているようです。
しかし、この演説以来、テレビでのニュース報道を見ていると、あからさまに武器を製造している様子が流されたり、一気に軍事化が加速したような印象を受け、あまりの加速モードにひいてしまいます。
アメリカ製品ボイコット運動とシャンパン・ワインへの200%関税
ゼレンスキー大統領との交渉が決裂してしまい、アメリカがウクライナへの援助を一時停止した(現在は再開)のと前後して、フランスをはじめとして、欧州でアメリカ製品ボイコット運動が呼び掛けられ始めています。しかし、現実的には、アメリカ製品は、フランスでも、あまりに深く、広く浸透しすぎているので、そう簡単な話ではありませんが、現実にトランプ政権に直接関係のあるテスラのような企業に対しては、ことさら風当りが厳しく、テスラは2月には、欧州での売り上げは3分の2減少したという話も聞きます。
そして、ここ直近で、一番、センセーショナルに騒がれているのは、トランプ大統領が、フランスをはじめとする欧州からのシャンパンやワインなどのアルコールに関して関税を200%かけると発表したことで、この200%という破壊的な数字もあって、フランスのシャンパン・ワイン・コニャックなどの業界が大きく揺れています。
この関税引き上げについては、もはやどこから話が始まったのか?整理しきれないほどですが、鉄鋼とアルミニウムに対する関税から、欧州委員会がハーレーダビッドソンなどのオートバイ、大豆や肉などの農産物、冷蔵庫や芝刈り機などの電化製品、米国産ウィスキーなどに相応の関税を課すと発表したことから、「シャンパン・ワイン200%関税」というパワーワードと思われる発言が出てきたのですが、これに対し、欧州委員会が「我々は常に自国の利益を守ると述べてきたが、同時に交渉に応じる用意があると強調したい」と述べているのに対し、フランスは、「我々は脅しには屈せず、常に我々の産業を守る」という態度を示しています。
以前に、マクロン大統領がこのトランプ大統領の脅しに屈した経緯をトランプ大統領が語っている映像が流れたりもしており、たびたびのトランプ大統領の発言の方向転換に慣れてきたこともあり、「彼の一言一句にはもう振り回されない!」という見方も広まっていることもありますが、当の業者にとっては、実際に関税が施行されてしまえば、為す術はなく、特にシャンパンやワイン、コニャックなどは、アメリカへの輸出が大幅な位置を占めており、ことにワインなどは、自国内での不人気も年々高まり、スーパーマーケットのワインコーナーは年々スペースが小さくなっています。こんな中で自国の産業のひとつでもあるシャンパンやワイン業界をどうやって国が守っていけるのかは大きく疑問が残るところでもあります。
もはやウクライナ戦争だけではなく、貿易戦争も加わっている現状に、これでは平和など遠い先どころか、先が見えない感じになっています。一見するとただの工場ではありますが、それが兵器の製造工場の様子がテレビで公然と流れているのを見ると、「これ?人を殺すためのものなんだよな・・」と思うと、それを大量生産している映像を穏やかな気持ちで見ていることはできません。
国民皆兵制度(SNU)の大幅見直し
ここまで書いたところで、突如、マクロン大統領が「今後、数週間以内に国民皆兵制度(SNU)の大幅見直しを発表する」ことが公表され、また、さらなる軍事化の兆しが見えてきています。まだ、具体的な内容は発表されていませんが、マクロン大統領は、すでに2017年の大統領選挙初出馬の際の選挙綱領の中に「国民皆兵奉仕制度の復活」を盛り込んでいました。
簡単に言えば、徴兵制ですが、これは、シラク大統領政権の際に軍隊を職業化し、この制度を停止しています。それ以来、徴兵制は、国民奉仕活動と名前を変え、かなり緩いものに変化してきました。しかし、シラク大統領はこれを停止したのであって、廃止したわけではないのです。
現在のロシアとウクライナをめぐる世界状況から見ても、この制度を大幅見直しするとなれば、これ以上、緩い方向に見直しされるとは考え難く、よもや、軍事訓練サービスのようなものが復活されるのではないか?との見方が強いです。これに対して、国民の反応は私にとっては意外でもあったのですが、2024年のCNRS(国立科学研究センター)とCEVIPOF(国立政治学院研究センター)の調査によると、18歳から25歳までの回答者の62%が「兵役義務を再導入するのは良いことだ」と答えているようです。
ここで、あまり関係ないかもしれませんが、つい先日、偶然、「マルセイエーズ(フランス国歌)って、そういえば、私、長年、フランスにいるのに、歌えないな・・歌詞を覚えてみようかな?」とふと、本当に偶然、YouTubeで探して、初めて、あらためて、歌詞を読んでみて仰天!今まで、メロディーだけは知っていたのですが、実はこんな歌詞だったのか!と。マルセイエーズはフランス革命の戦争の際に兵士を鼓舞するために作られた歌だということは漠然と知ってはいたのです。しかし、歌詞の内容は、「いざ祖国の子らよ!栄光の日は来たれり!暴君の血染めの旗が翻る!戦場に響き渡る獰猛(どうもう)な兵らの怒号!我等が妻子の命を奪わんと迫り来たれり」、「武器を取るのだ、我が市民よ!隊列を整えよ!進め!進め!敵の不浄なる血で耕地を染め上げよ!」そのあまりに軍歌そのものというか、血なまぐさい感じといい、フランスという国は、これを国歌とする国なんだということを今さらながら、今、起こっている軍事化の流れを見て、妙に納得させられているのです。

- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR