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ヴィズマーラ恵子|イタリア

ウクライナの希少鉱物、トランプ大統領が注目する理由

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アメリカとウクライナの間で進行中の500億ドル(約7兆4049億円)規模の交渉、希少鉱物とエネルギー資源が鍵を握る

ウクライナには、アメリカと欧州連合(EU)が重要視する希少鉱物が豊富に埋蔵されている。

『彼らは素晴らしいレアアースを持っている。私はそれを欲しい』

いつもの攻撃的で自信満々なスタイルで、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、自分の手中に収めるべき新たな国を見つけた。それがウクライナだ。

アメリカは、ウクライナに対する軍事支援と引き換えに、これらの資源を採掘・利用するための交渉を行っており、その取引額は500億ドル(約7兆4049億円)に達すると言われている。

アメリカがウクライナに対して1000日以上にわたる莫大な支援を行ってきた中、トランプ大統領は今、経済的な補償を要求している。それがウクライナが豊富に持つレアアースだ。

2024年2月10日付の『ラ・スタンパ』の記事によると、『アメリカの大統領はウクライナの大統領ウォロディミル・ゼレンスキーとレアアース、金属、ガスのアクセスに関する合意を長らく進めており、戦争終結に向けた安全保障の保証を交換条件にしている』という。『レアアースやその他のもの』とは、ウクライナ地下に眠る鉱物、金属、ガス、リチウム、チタン、ウランなどの宝庫を指していることは簡単に理解できる。

ドナルド・トランプ大統領は、保守派の集まりである「CPAC」で、

「ウクライナには1000億ドル(約14兆8125億円)を貸し付けたヨーロッパと比べ、我々は3000億ドル(約44兆円)を貸し付けた。だからこそ、希少鉱物や石油、その他の資源を要求している」と語った。

トランプの意図が驚きではないのは、戦争がしばしば天然資源、特にエネルギー資源を確保するために起こること、そして紛争中に援助が無料ではないという事実に基づいている。しかし、争点が『レアアース』であることが新しい。
このレアアースに関する議論はすでに始まっており、公式にはこれまで、戦争の原因となる重要な要素とはされていなかった。しかし、地政学的な緊張はすでに存在しており、特にアメリカと中国の間で顕著だ。この緊張は2025年に入ってさらに高まっている。

ウクライナは、戦略的に非常に重要な鉱物資源を豊富に持っている国である。特にクリーンエネルギー技術や先端機器の製造に必要な重要な材料がウクライナには広く埋蔵されている。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカに対してウクライナの資源、特にレアアースの優先的な利用を許可する意向を示しており、その理由として「アメリカがウクライナを最も支援してくれた」ことを挙げている。

しかし、ゼレンスキー大統領の計画には一つ大きな問題がある。それは、ウクライナの資源が豊富な地域の半分以上がロシアに占領されていることで、計画を実現するためにはまず戦争に勝利しなければならないという現実がある。

ゼレンスキー大統領は、ヨーロッパからの支援に対しても同様の対応をしており、「再建のビジネス」として、支援を得る代わりに欧州諸国や金融界、企業にウクライナへのアクセスを約束している。

この計画は、2025年7月10日と11日にイタリア・ローマで開催される「ウクライナ回復会議」で再確認される予定だ。

| ウクライナの資源:レアアースだけではない


2024年7月、ウクライナのアナリスト(元議員)ナタリヤ・カツェル=ブフコフスカは、ウクライナが持つ膨大な自然資源について言及した。

『ウクライナは地質学的に多様な地域を持ち、世界の主要な鉱物資源供給国の一つである。ウクライナはレアアース金属の主要供給国の一つであり、チタン、リチウム、ベリリウム、マンガン、ガリウム、ウラン、ジルコニウム、グラファイト、アパタイト、フルオライト、ニッケルなどを供給している。』

ウクライナは、ヨーロッパで最も大きなチタンの埋蔵量を持ち、航空宇宙、医療、自動車、海運産業にとって不可欠なチタンを供給してきた。

また、リチウムの埋蔵量はヨーロッパで最大であり、バッテリー、セラミック、ガラスに不可欠である。ウクライナは世界で5番目に多くガリウムを生産しており、半導体やLEDの製造に必要だ。そして、ウクライナはアメリカのチップ産業にとって欠かせないネオンガスを90%供給していた。

ウクライナ国内には、アメリカが「クリティカル(重要)」と認定している50種類の材料のうち22種類、またEUが同様に重要とする34種類のうち20種類が存在する。これには、リチウム、グラファイト、コバルト、チタン、そしてスカンジウム、サマリウム、ネオジムなどの希少元素が含まれる。
これらの鉱物資源は、クリーンエネルギーの技術革新、電気自動車(EV)の普及、再生可能エネルギーの蓄電技術の進展、さらには先端的なテクノロジー機器の製造に欠かせないものであるため、ウクライナの鉱物資源が国際的な経済と安全保障においてますます重要となることは間違いない。

確かなことは、アメリカの要求する『レアアースなど』がウクライナに受け入れられたことである。ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカに資源の優先的利用を許可することに賛成しており、その理由は『アメリカがウクライナを最も支援してくれた』からだと述べている。


| ウクライナに存在する重要な鉱物資源

ウクライナは、特に以下の鉱物資源を多く含んでいる

リチウム(Lithium)
リチウムは、電気自動車(EV)のバッテリーやエネルギー貯蔵システムに不可欠な素材。リチウムの需要は急増しており、特にクリーンエネルギー分野において重要。ウクライナはリチウム鉱床の大きな埋蔵量を持ち、今後のグリーンエネルギー革命において重要な役割を果たす可能性がある。

グラファイト(Graphite):グラファイトは、リチウムイオンバッテリーの負極(アノード)に使われるほか、電気自動車や再生可能エネルギーのストレージシステムにも利用される。特に、グラファイトは現在、テクノロジー業界で非常に重要な素材。

コバルト(Cobalt):コバルトは、リチウムイオンバッテリーに使用される重要な金属であり、電動車やスマートフォンなどのデバイスに欠かせない。ウクライナは、コバルトの埋蔵量も多いとされている。

チタン(Titanium):チタンは、高強度・低密度を持ち、航空機、軍事機器、医療機器に広く利用される素材。ウクライナは、チタン鉱石の重要な生産国であり、その埋蔵量と品質は世界でも注目されている。

希少元素(Rare Earth Elements):ウクライナは、スカンジウム(Scandium)、サマリウム(Samarium)、ネオジム(Neodymium)などの希少元素の埋蔵が豊富。これらは、モーター、風力発電機、スマートフォン、コンピュータ、さらには新しいエネルギー技術において非常に重要。

-スカンジウムは、アルミニウムの合金に使用され、航空機や高性能自動車に利用される。
-サマリウムは、特に強力な永久磁石(サマリウムコバルト磁石)に使用され、産業用機器や風力発電機に不可欠。
-ネオジムは、非常に強力な磁石を作るために使用され、特にエレクトロニクスや電気モーターに重要。

| レアアースについて、中国も黙ってはいない

アメリカは、レアアースにおける中国の支配に強く反発しており、この分野での自国の供給を確保したいと考えている。

レアアースは、電気自動車や充電式バッテリー、風力タービン、電子機器、航空宇宙、防衛、再生可能エネルギーなど、現代のテクノロジーに欠かせない資源となっており、その重要性はますます高まっている。特にアメリカにとって、技術の発展や国家安全保障において、レアアースの供給は重要な課題だ。

一方、中国はこの分野で圧倒的な支配力を持ち続けており、最近では中国南西部で新たなレアアース鉱床が発見されたという報道がある。

この鉱床は47万トンに達すると予測されており、中国の影響力はますます強化される可能性が高い。中国が世界のレアアース供給の70%を管理し、特に精製や加工能力においても90%を超えるシェアを占めていることから、その戦略的地位は極めて重要だ。
中国はこの支配的地位を利用し、世界的な経済競争において強い影響を持つことができる。

アメリカとしては、中国の支配を打破し、自国での供給を確保したいという意図が明確だが、実現には時間と大規模な投資が必要だ。

特に、アメリカが自国内でのレアアース採掘を拡大しようとする場合、中国との競争は避けられない。しかし、現状では中国の圧倒的なリーダーシップが続いており、アメリカの取り組みがどこまで実現できるかは不透明だ。

短期的には、レアアースの採掘活動は続くと予想されているが、真の競争が生まれるには時間がかかるだろう。さらに、循環型経済への移行は未だに遠い未来の課題となっており、リサイクル技術や資源管理の改善がなければ、レアアースに対する依存は続く可能性が高い。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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