
イタリア事情斜め読み
メローニ首相のリーダーシップと欧米協力、ウクライナ戦争の行方

| ウクライナ戦争の最新動向と国際的反応
ゼレンスキー大統領の辞任提案とメローニ首相の安全保障政策
ウクライナ・ロシア戦争は丸3年が経過した。国際社会の対応は一層複雑化している。この長期紛争はウクライナ国内の戦闘激化に加え、世界の政治動向にも大きな影響を及ぼしている。
注目すべきはウクライナのゼレンスキー大統領がNATO加盟に関する意向を表明したことと、アメリカのトランプ前大統領がウクライナへの軍事支援停止の可能性を示唆した点である。
これに対しヨーロッパでは和平へのアプローチが模索される中、複数の国際会議が開催され、ウクライナ問題に対する各国の立場が明確化しつつある。
| ゼレンスキー大統領の辞任提案とNATO問題
ウクライナ大統領ゼレンスキーは、ウクライナがNATOに加盟する場合、自身が辞任する意向を示した。
彼は「ウクライナがNATOに加盟することが確定した場合、私は使命を果たしたことになるので辞任する」と述べた。
その背後にある決意を強調した。
しかしゼレンスキー大統領は「辞任することは簡単ではない」とも語った。
選挙を通じて自分を排除することが難しい点を指摘した。ゼレンスキーの発言はウクライナが西側の軍事同盟に加わることでロシアとの対立が一層激化する可能性がある中で、他の欧米諸国の反応をも引き起こしている。
ゼレンスキーのこの発言はウクライナ戦争の終結に向けた議論の中で注目されている。
戦争の長期化を避けるための重要な政治的なメッセージとも言える。ウクライナのNATO加盟には依然として大きな障壁がある。ロシアの強い反対が予想される中で、ゼレンスキーはその道筋を探る中で自らの辞任という形で譲歩を示す意向を持っているのである。
| 米国の影響とトランプ大統領の姿勢
アメリカではトランプ前大統領がウクライナへの支援停止を提案するなど、国内の政治情勢がウクライナ問題に大きな影響を及ぼしている。トランプはウクライナに対する武器供給を停止する可能性を示唆した。ウクライナへの支援を続けるべきかどうかについて重要な議論を呼び起こしている。
トランプはウクライナへの支援がアメリカの利益にかなわないと考えており、またウクライナ戦争がアメリカ国内での政治的な争点になっていることに懸念を示している。
特に彼はアメリカ国内の移民問題や治安問題を優先し、「プーチンのことを考えるより、アメリカ国内の問題を解決すべきだ」と述べた。この発言はアメリカ国内の保守派から支持を集める一方で、ウクライナ戦争の早期解決を望む声とは矛盾する部分もある。外交政策としての整合性を欠くとの批判もある。
トランプのこうした発言はアメリカ国内での外交方針を左右する。ウクライナ支援に対するアメリカの姿勢が変わる可能性を示唆している。この変化が今後ウクライナやロシアとの関係にどのような影響を与えるかは、今後の動向を注視する必要がある。
| ウクライナ軍、アメリカの支援なしで何ができるか
スターリンクが遮断されれば、即座に深刻な影響が出るだろう。
ロシア・ウクライナ戦争は「道徳的」な要素と「物質的」な要素が無限に絡み合った戦争である。前者が後者よりも決定的な影響を持つことさえあり、現代の軍事技術にもかかわらず、この点は変わらない。
勝利する自信を持つことが非常に重要であり、どんなに装備が整っていても、軍隊が信頼と士気を失えば、装備が不十分な敵でも勝つ可能性が高くなる。これは歴史上の数々の例から明らかである。
現在、ウクライナの士気は非常に低く、1,200kmにわたる戦線に配置された数十万人の兵士たちの間では、戦いの疲れが感じられる。
アメリカからの直接的な軍事支援は、過去3年間で65.9億ドル(約9,885億円)に達しており、議会で承認された金額は175億ドル(約2兆6,250億円)にのぼるが、その多くはウクライナ軍の訓練に使われている。
ウクライナの空を守るためには、アメリカから提供されたパトリオットミサイルが不可欠である。
もしアメリカからの支援がなければ、ロシアはウクライナの首都キーウ中心部や政府の施設を容易に攻撃できるようになる。
現在、パトリオットが唯一、ロシアのミサイルを迎撃できるシステムである。
アメリカ製の長距離ミサイル「HIMARS(ハイマース)」や「ATACMS(アタクムス)」も重要な戦力となっている。
ウクライナの軍事産業はドローンなどの新しい技術を開発しているが、もしイーロン・マスクがスターリンクを停止した場合、ウクライナの軍隊は完全に盲目になり、戦闘が不可能になるだろう。
ウクライナ政府は独自の代替手段を見つけたと主張しているが、それは信じがたいとされている。
アメリカからの支援がなければ、ウクライナは戦場での優位性を維持できない。
| ヨーロッパの反応と和平への道
ヨーロッパではウクライナ戦争に対する対応が国ごとに異なっている。
フランスのマクロン大統領とイギリスのスターマー首相はウクライナに対する援助を続ける姿勢を強調している。さらに具体的な戦略を提案している。特にフランスとイギリスはウクライナ戦争の終結に向けて「1ヶ月間の停戦」を提案している。この提案はロシアとウクライナが一時的に戦闘を停止し、外交的な交渉の余地を生むことを目的としている。
一方ウクライナのゼレンスキーはこの停戦提案に対して慎重な姿勢を見せている。停戦にはロシア側の「善意の証明」が必要であると強調している。ゼレンスキーはロシアがウクライナの都市を攻撃し続ける限り、停戦は意味をなさないと考えている。停戦が平和の確保にどれほど寄与するかについて疑問を呈している。
これに対してロシアのプーチン政権は停戦を交渉の一部として受け入れる姿勢を見せているものの、戦争の目的を達成するまで戦闘を続ける意向を示している。停戦の合意に向けた道のりは依然として険しい。
| イギリスとイタリアの連携強化とは
3月2日にイギリスのスターマー首相がバッキンガム宮殿近くのランカスター・ハウスで主催した会議には、ドイツ、デンマーク、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スペイン、カナダ、フィンランド、スウェーデン、チェコ共和国、ルーマニアのリーダーに加え、トルコの外相、NATO事務総長、欧州委員会と欧州理事会の議長が参加した。
イタリアのメローニ首相とイギリスのスターマー首相はロンドンでの会談において、ウクライナ問題を中心に両国の連携を強化する方針を確認した。
メローニ首相は両国が共通の目標であるウクライナの公正で持続可能な平和を実現するため、協力を進めるべきだとの共通認識を示した。両国が安全保障や移民問題に新たなアプローチを採るべきだとも述べた。
ウクライナ問題における協力の強化については、メローニ首相はウクライナ戦争が続く中で、西側諸国が一丸となり、共通の目標に向かって協力することの重要性を再確認した。彼女は「現在、非常に重要なのは、我々が協力し、ウクライナのために公正で持続可能な平和を実現することだ」と述べ、イタリアはウクライナに対する支援を継続して行うことを表明している。
そして、「ウクライナ問題において、西側諸国が分裂することは非常に危険だ。我々イタリアとイギリスが、橋をかける役割を果たすべきだ」との見解を示した。
ウクライナ戦争が西側の結束に対する試練であることを認識し、団結の重要性を再確認したと述べている。
メローニ首相はウクライナ戦争を終結させるための外交的努力も重要だとした。その過程でイタリアとイギリスが積極的に関与することの必要性を強調した。
| ロシアとの関係とエネルギー政策
ロシアとの関係においては、両国が共に「強硬な姿勢」を取るべきだという点で意見が一致した。
メローニ首相はロシアの侵略行為に対して引き続き圧力をかけ、ウクライナを支援するために国際社会が一丸となる必要があると言っている。ロシアの侵略行為を止めるためには、引き続き外交的な圧力を維持することが不可欠である。
ロシアのエネルギー資源に依存しない体制を構築するため、イタリアとイギリスが協力して再生可能エネルギーや他のエネルギー供給源を拡大する必要がある。
メローニ首相は「ウクライナに対する支援は続けなければならないが、同時にロシアに対して強い経済的圧力をかけることも重要だ。西側諸国がロシアへの制裁を維持し、侵略行為を止めさせるべきだ。」と強調した。
最近ロシアのガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」の再稼働を巡る報道が注目を集めている。
イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズ (Financial Times)は、元ロシアのスパイであり、プーチン大統領の信任を得ているマティアス・ヴァーニヒ氏がアメリカの投資家と協力し、ノルド・ストリーム2の再稼働を目指していると報じた。
この計画にはアメリカの影響力が強く関与しており、アメリカがヨーロッパのエネルギー供給に対する支配を強化する狙いがあるとされる。
ヴァーニヒ氏は、2023年までノルド・ストリーム2の親会社を運営していた人物である。この動きはアメリカとロシアの関係が再び接近する兆しとして注目されている。
一方イタリアとイギリスはこのような動きに対しても強い警戒感を持ち、ロシアからのエネルギー依存を完全に断ち切る必要があると考えている。
メローニ首相は「ヨーロッパはロシアに依存しないエネルギー供給体制を構築するべきだ」と述べた。両国の連携をさらに強化していくことが求められると語った。
| アジアの視点:中国とロシアの関係
ウクライナ戦争の国際的な影響はアジアにも波及している。中国はウクライナ戦争に関して中立的な立場を取り、「中国がこの危機を引き起こしたわけではない」と主張している。
また、北京は戦争の解決に向けて和平交渉を支持し、ロシアに対しては支援を提供する一方で、直接的な軍事介入は避ける姿勢を見せ、中国は国際的な秩序の安定を重視し、ウクライナ戦争の早期終結を望んでいる。
しかし、中国とロシアの関係はこの戦争を通じてさらに強化されている。
両国は経済的、軍事的な協力を深めているようだが、国際社会がロシアに対して厳しい制裁を課す中で、中国の立場は微妙だ。
今後の中国の外交方針がどのように進展するかは注目される。
| メローニ首相の外交政策と他国との関係
メローニ首相は国際政治で確固たる立ち位置を確立しつつある。特にウクライナ戦争に関しては、EU内でも重要な役割を果たしている。彼女はフランスとの関係を大切にしつつも、イタリアはNATOとアメリカとの関係を最優先しており、フランスの「ヨーロッパの軍事的独立」に対しては慎重な立場を取っている。イタリアはフランスと協力しながらも、アメリカとの強い関係を維持しようとしているのだ。
フランスはメローニ政権にウクライナ支援に積極的に関与することを期待している。マクロン大統領は、イタリアがフランスと共にEU内でリーダーシップを発揮することを望んでいる。しかし、メローニ首相はEU単独での軍事介入には反対しており、NATO枠組みでの支援が重要だと考えている。
ドイツとの関係も重要だ。ドイツは最初は慎重だったが、戦争の長期化とともにウクライナ支援を強化している。ドイツは依然としてアメリカとの協調を重視しており、EU内での軍事的独立には慎重だ。
メローニ首相は、フランスとイギリスが提案した欧州兵の派遣について、イタリアはその実行に懸念を抱いており、「効果には疑問がある」と考えている。首相は、冷静に思考し、安易に決断を下さないことの重要性を指摘した。
米国とゼレンスキー政権の間で緊張が高まる中、メローニ首相は、欧州と米国の間での会談開催が必要だとの立場を取っている。
また、メローニ首相はウクライナに兵士を派遣しない方針を再確認し、戦争に対して冷静かつ理性的に対応すべきだとの考えを表明した。米国とゼレンスキーの関係における緊張については、「トランプは、誰かが破る可能性のある合意を許すわけにはいかない」と述べ、慎重な姿勢を示した。首相は、すべての関係者との対話が平和的解決に貢献すると述べ、熱狂的な支持者たちの態度は解決には繋がらないと警告した。
| NATOの重要性とメローニ首相の安全保障政策
メローニ首相は、イタリアの安全保障を確保するためにNATOの枠組みを最優先課題としている。ウクライナ戦争を通じて、集団防衛義務に基づく協力の重要性を強調し、イタリアは自国の安全を守る一方で、欧州全体の安定に貢献する役割を果たしている。
NATOとの連携強化を目指すと同時に、国内の防衛力強化にも力を入れており、予算制約の中でどのように国の防衛を強化し、欧州全体の安全保障に貢献できるかが重要な課題となっている。
イタリアはアメリカからの支援を受けつつ、欧州内での軍事的なプレゼンスを高めるべきだと考え、アメリカとの密接な関係を保ちながらNATOを中心にした協力を強化する方針を取っている。
一方で、ウクライナとロシアの戦争は依然として終息の兆しが見えず、国際社会の対応も複雑化している。
ゼレンスキー大統領の辞任提案や、トランプ氏による軍事支援停止の呼びかけなど、戦争の行方を左右する要素が増している中で、和平の道は依然として遠いようだ。ロシアとの対話の進展も不透明であり、ヨーロッパからの停戦提案や中国の立場も絡んで、国際社会は難しい外交的選択を迫られている。
今後の展開を注視し、適切な対応を考える必要がある。

- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie