イタリア事情斜め読み
欧州自動車大手ステランティスの惨状、タヴァレスの退職金160億円、すべてが誤り
| タヴァレスの経営戦略の失敗
売れ残った車、存在しない電気自動車、株価急落、労働組合との関係は常に険悪、なのに退職金160億円
ステランティスは、PSA(プジョー・シトロエン・オペル)グループとFCA(フィアット・クライスラー)グループの合併により誕生した欧州自動車大手グループで、ポルトガル人のカルロス・タヴァレス氏がその経営を牽引していた。
タヴァレスはその経営の舵取りを担い、2021年に発表された「Dare Forward 2030」計画では、2030年までに売上高3000億ユーロ(約48兆円)を目指すとされていた。
2023年は、売上高1895億ユーロ(約30兆3200億円)、純利益186億ユーロ(約2976億円)という良好な数字を記録していたが、2024年3月からその勢いは急減速した。
2024年6月には、売上高が14%減少し、85億ユーロ(約1360億円)、純利益は48%減少して56億ユーロ(約896億円)、営業利益は40%減少して85億ユーロ(約1360億円)となった。
納車台数は280万台で、そのうち北米での販売は18%減の83万8000台、欧州での販売は6%減の130万台、マセラティは販売台数を半減させ、6500台(-8.8%)となった。
2024年の初めからその経営状況は急速に悪化し、数々の問題が浮き彫りになった。
ステランティスの業績は悪化し、売れ残った車で満杯になった倉庫、計画通りに進まない電気自動車の生産、労働組合との対立など、問題は山積している。
2024年9月にはさらに状況が悪化し、ステランティスは利益を発表しなくなった。売上高は27%減の330億ユーロ(約5兆2800億円)、納車台数は20%減の110万台となった。
北米では納車台数が36%減少し、299万台、欧州では17%減少し496万台となった。
マセラティは60%減の2100台となった。低迷した販売台数が原因で、12億ユーロ(約1920億円)の売上減少を引き起こしている。
イタリアの企業・製造業大臣アドルフ・ウルソは、グループの会長ジョン・エルカン氏とアメリカから電話会談を行い、12月17日にMimitで行われる会議が確認された。
その会議には、ステランティスのヨーロッパ担当責任者ジャン・フィリップ・アンパラト氏が参加し、イタリア計画に関する交渉を前向きにまとめることを目指している。
| ステランティスの販売状況
2024年10月のデータによると、ステランティスは欧州で15万346台を販売し、2023年同月比で16.7%の減少を記録した。市場シェアは14.4%に落ち込み、2023年同月の17.4%から減少した。2024年の1月から10月までに、ステランティスは170万846台を販売し、前年同期比で7.1%減少し、市場シェアは17.1%から15.7%に縮小した。
イタリアでは、10月に3万1924台を販売し、2023年同月比で27.8%減少した。市場シェアは31.7%から25.2%に減少した。2024年の1月から10月までに、ステランティスはイタリアで39万7232台を販売し、前年同期比で8%減少し、市場シェアは32.8%から29.9%に低下した。
株価は10%急落し、1株あたりの価格は過去最低水準に迫った。特に、アメリカ市場での販売不振が大きな原因で、ステランティスの倉庫には、2024年6月末時点で140万台の売れ残り車両があるという。
その結果、北米市場でのシェアは18.1%減少し、営業利益は半減して43億ユーロ(約688億円)となった。
元CFOであるナタリー・ナイトは、在庫を10万台減らすことを約束していたが、第3四半期でも問題は解決しなかった。
タヴァレスの戦略では、年末までにさらに5億ユーロ(約800億円)のコスト削減とディーラー価格の引き上げを計画していたが、彼が唯一値下げを行わなかった自動車メーカーであった。
労働組合との対立と経営陣の刷新
ステランティスは、アメリカの労働組合UAWとの関係が悪化し、ストライキの予告が相次いだ。タヴァレスは経営陣の刷新を試み、ジープの新責任者を任命したものの、労働組合の反発は収まらなかった。また、メキシコでのジープ・ワゴニアSの生産決定は、労働組合からの強い反対を受け、さらに対立を深めた。
電気自動車の遅れと投資問題
2024年には100万台の電気自動車を販売する計画だった。
さらに、タヴァレスが掲げた「Dare Forward 2030」計画は非常に野心的で、2030年までに売上高の52%を電気自動車(EV)から得ることを目指していた。
しかし、現実は厳しく、特にイタリア市場ではEVの販売が伸び悩んでいる。例えば、500Eは一時期人気を集めたものの、次第に販売は停滞し、タヴァレスはハイブリッド版を投入せざるを得なかった。
また、マセラティの電気自動車の生産は計画通りに進まず、セラティMc20は2025年3月にモデナでの生産開始予定だったが、タヴァレスの決定により延期された。
マセラティGTは生産を続けているが、工場は来年1月に再開予定だ。
一番の逆説的な状況は、フェラーリとマセラティのエンジン工場であるテルモリにある。
ここは、未来の大規模バッテリー工場に転換される予定で、ステランティス、メルセデス、トタールが共同で運営する「ACC」下で作られることになっていた。しかし、イタリア経済開発省(Ministero delle Imprese e del Made in Italy、略称Mimit。イタリア国内の企業活動や産業政策を担当する政府機関)との交渉の末、このプロジェクトは延期され、テルモリ工場ではすでに21月に121名の早期退職が促されている。
| タヴァレスの退職金とその批判
タヴァレスは2023年12月初旬にCEO職を辞任し、その退職金として1億ユーロ(約160億円)を手にするとされている。
2023年の給与は確定しており、2340万ユーロ(約37億4400万円)である。さらに、目標を達成した場合には1350万ユーロ(約21億6000万円)のボーナスが支給される予定だったが、その可能性は極めて低いとされている。
タヴァレスは常に自身の高額な報酬を擁護しており、「自分の価値に見合った報酬を受け取っている」と述べていた。
タヴァレスは、その高額な報酬をもらうのは当然であると主張し続け、「自分の価値に見合った報酬を受け取っている」と述べていた。2023年の年収は2340万ユーロ(約37億4400万円)に達し、さらに業績目標を達成すれば1350万ユーロ(約21億6000万円)のボーナスも支給される予定だった。
しかし、ステランティスの業績低迷により、そのボーナス支給の可能性は極めて低く、退職金として1億ユーロの支給が噂されている。この高額な報酬に対しては批判が集まっており、特に業績が悪化している中での退職金に対して、株主や労働者からの反発は強い。
| 今後のステランティスの方向性
ステランティスは今後、イタリア政府との協議を進める予定で、2024年12月には重要な会議が開かれる。
この会議では、グループのヨーロッパ担当責任者ジャン・フィリップ・アンパラトが参加し、イタリア市場に関する戦略を再編することが期待されている。しかし、タヴァレスの辞任後、次のCEOがどのような方針を打ち出すかが注目されており、業績の回復に向けた難しい舵取りが求められる。
ステランティスが直面する課題は山積しており、今後の経営戦略とその結果が注目される。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie