
パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
フランスと日本 出産・子育てに関する違いはどこにあるのか?

パリの街を歩いていたら、私のすぐ前にバゲットを小脇にかかえてバギーを押して歩いている若い男性がいて、なんだか微笑ましい気持ちになりました。こんな男性は、そんなに多くはないとはいえ、パリではそれほど奇異な存在ではありません。フランスの学校(幼稚園や小学校)では、子どもの送り迎えは必須なので、特に朝、学校への子どもを送っていくのは、パパであることも少なくないので、なんとなくそれと姿がダブるせいなのかもしれません。
私は日本で出産・育児を経験したことがないので、日本でのそれを実感として感じることはできないので、日本での出産・育児に関しては自分が生まれ育った時代の印象が強いところもあると思うのですが、それなりにフランスと日本のこの問題に関する違いを考えてみたいと思います。
出産・育児に関わる国の援助
フランスでも少子化問題は、深刻な問題になりつつあり、政府もこれに対し、定期的に?出産休暇・育児休暇の改正、また、不妊治療、卵子自己保存キャンペーンなど多くのことに取り組んでいます。
フランスの出産休暇は現在、第1子・第2子の場合は、出産前6週間+産後10週間の合計16週間が認められており、2021年には、父親の育児休暇が28日間に延長され、欧州でもトップクラスのレベルに達しています。この育児休暇は産休と同じ条件で社会保障によって補償されており、しかも、これを申請する場合は出産直後の最初の1週間は強制的に取得することが義務付けられています。(義務付けられている給付を希望する場合は、休暇の開始日の少なくとも1ヶ月前に雇用主に通知する必要がある)
また、増加している不妊症の問題については、不妊治療の保険対応はもちろんのこと、20歳前後の女性に対する不妊検査や不妊治療の無料化や卵子自己保存キャンペーンなども行っています。多くの疾病と同じく、不妊症に対しても早期発見・早期治療ということを積極的に行っていくことに国が関わっていくということだと思いますが、実際に現代の20歳前後の女性が20歳前後の時点で、具体的に妊娠・出産について、どの程度、真剣に考えるだろうか?などということを考えれば、どれほどの成果が見込めるものだろうか?と疑問に感じないでもありませんが、身近に不妊症に苦しんでいる人がいたりすれば、自分におきかえて考えるかもしれません。
そして、実質的な出産後の育児に関する補助金に関しては、これは親の収入(両親の年収)によって異なりますが、3歳までの子ども一人に対して月額最大約 688ユーロ(約111,000円)、3歳から6歳までは、約 344ユーロ(約56,000円)が支払われます。また、学校給食に関しても、親の年収によって金額が異なるように設定されています。フランスの補助金の多くは、この年収によって異なる設定になっているため、より困っている人により多くの人の援助が向けられるように設定されているところは、合理的だなと思います。
これは、産んだらそれで終わりではなく、その後も国が援助し続けてくれるありがたい援助だと思いますが、そうはいっても、私自身は実際の子育てには、それで賄いきれるわけではなく、もっとお金がかかるしな・・と思っていたのですが、これを逆手にとって、働かずにこの子育ての援助金目当てに親は働かずにやたらと子だくさんな家庭もないことはありません。
子育てに関する認識の違い
日本には「イクメン」という言葉があるようで、この「イクメン」という言葉・・正直、どんなものなのか?と調べようとしたら、なんと、厚生労働省「イクメンプロジェクト」(産後パパ育休など)なるものまで存在していて、正直、驚きました。この「イクメン」とは、「子育てに積極的に関与する父親」のことだそうで、この子育てに積極的に関与するという「関与」という部分がおそらく、フランス人とは違うのだろうな・・と思います。
フランス人は、バカンスやノエルの行事など、家族が主体の行事をとても大切にして、楽しんでいる人々が多く、そのために生きているような感じも無きにしもあらずといった感じがします。つまり、生きていく柱として、家族というものを置いているようなところがあり、子育てに関しても、「積極的に関与する」とかいうものではなく、主体的に行うものだと考えているように思います。男性も子育てを手伝うのではなく、自らが主体となって子育てをするという感覚があります。もちろん、個人差はあると思いますが、フランス人の一般的な観念だと思います。これは、社会全体がそういう認識であるということだと思います。日本にある「家族サービス」という言葉は、おそらく日本でもその言葉を使う人は減っているとは思うものの、フランスには、そういう言葉や観念はありません。育児をする、家族とともに時間を過ごすことは一方的なサービスではなく、自らが共に家族を築き上げる過程のひとつひとつであり、それを、それこそを楽しんでいるという方が正しいかもしれません。もちろん、人生はバカンスやノエルのように楽しいことばかりではないし、日々の子育ては大変なことの方が多いと思いますが、その生活のひとつひとつを積み重ね、子育てを含めて自らの人生を築いていく・・そんな感覚があると思います。家族サービスなどという時点で、もうその男性は、その家族の外野であることを認めているようなものだとも思うのです。
私自身のフランスでの子育てにおいて、フランス人の夫は娘が10歳のときに他界してしまったので、パパとしての夫は娘が10歳のときまでで終わってしまいましたが、その間、私は子育てにおいて、夫に手伝ってもらっているという感覚は全くなく、夫もまた、手伝っているという感覚は全くなかったと思います。もちろん、全てにおいて、どちらかが主役ということはなく、徐々に役割分担がなされていった感じでした。朝、娘を学校に送っていくのは夫、迎えに行くのは、私。フランス語に関しては、夫担当。日本語教育に関しては私担当。その他、日常のお休みも二人でずらして取って、時には家族3人の時間を過ごす。その他のお稽古事などに関しても、その都度、話し合って、それぞれが都合をつけていました。どちらかにより負担が多くなって、それがアンバランスになったこともなく、育児が大変であっても、それが根本的なストレスとなったことはありませんでした。最大のアンバランスといえば、夫があまりにも早く急逝したことによって、一人で育児をすることになったことです。
私は日本で子育てをしたことがないので、日本での出産・育児に関しては、正直、実感としてはわからないのですが、こうした男性側の感覚の違いはとても大きいのではないだろうか?と思っています。
・・にもかかわらず、少子化
こうして、自分の子育てを振り返ってみると、概してフランスは出産・育児に関して、特に優れているとは言わないまでも、悪くない国ではないかと思っています。しかし、私は出産・育児をするということを前提にフランスという国を選んだわけではなく、たまたま出逢った人がフランス人であったために、フランスに来ただけで、運というか運命としか言いようがなく、また、周囲の人々に恵まれ(特に夫の他界後)、その時々に最善を尽くそうとしたとしか言いようがありません。
子育て環境の良し悪しには、おそらく時代も関係しているだろうし、その国の文化やお国柄というか、社会全体の風潮など様々なものがあると思います。フランスは国の出産・育児の援助・補助体制が良い方の国だと思いますが、現実的には、フランスも少子化問題を抱えており、現在は、一人の女性が出産する子どもの数は、1.68人と言われています。これには、インフレにより特に中流階級層の生活が厳しくなったことや女性の社会進出、現代の若者の価値観の変化など様々な原因が指摘されています。
フランス(特にパリ)では、女性が働くことがあたりまえで、そのために出産休暇、男性を含む両親の育児休暇などが比較的充実していて、女性も職場復帰がしやすいようになっているのですが、にもかかわらず、子どもを持ちたいと思う人が減っている、それ以外のことに楽しみを見出している人が増えているのだとも思います。実際には、以前にも書かせていただいた、成人して仕事を持っても、親元を離れられずにいる「タンギー現象」なるものも社会問題となりつつあります。
子どもの側も、より豊かな生活を送るためには、親元にいる方が快適だったり、親側もどこか、子どもを抱え込み続けて、手放したがらない・・そんな風潮もどこかにあるのかもしれません。
しかし、そんな子どもを持ちたがらない若者たちに向けられるのは、「あらゆる困難にもかかわらず、人生は美しいものです。楽観的に生きよう!la vie est belle(人生は美しい)」という言葉でもあります。いかにもフランス人らしい言葉でもありますが、ある意味、心を突いた言葉かもしれません。ある程度、安定した生活環境を確保してしまえば、それを壊して失うことは、冒険であるには違いありません。この冒険をしなくなった人が増えたというか、その余裕が実質的にも精神的にもなくなったのか? それは、少しだけ便利っだったり、少しだけ豊かだったりすることに慣れた人がそれを失うかもしれないことが、想像以上に難しいということなのかもしれません。

- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR