バイデン政権誕生を後押ししたアメリカ人ムスリムの政界進出
それが共和党政権にとっていかに煩わしいことだったかということは、2019年にこの2人がイスラエルに入国を拒否されたときの、トランプの対応からもよくわかる。2人とも、これまで米国内で「イスラエル・ボイコット運動=BDS(Boycott, Divestment, and Sanctions)」を主導してきたことで有名だが、2019年、パレスチナを訪問しようとしていた2人はイスラエル政府から入国を拒否された。このときトランプは、自国議員の移動の権利を擁護するどころか、逆にイスラエルに入国禁止の措置を促したと言われている。トランプは、2人に対して「出身国へ帰れ」といったツイートを行うほどに、「ムスリムで移民出身で女性」の政界進出を嫌っていたのである。
今回の大統領選と同時に実施された連邦議会選挙では、2人は堂々と再選を果たした。そればかりではない。連邦議会選と並行して実施された州議会選挙の結果にも、ムスリムの政界進出という現象をはっきり見て取ることができる。移民系のイスラーム教徒の議員が8人、いずれも民主党から立候補して初当選したのである。うち、フロリダ、コロラド、オクラホマ、デラウェア、ウィスコンシンの五州では、初めてのムスリム議員の誕生を見た。
そして、その多くが改宗したムスリムではなく、移民系のムスリムである。トランプ政権下での反移民の風潮が、逆にそうした層の政治進出を促したともいえるだろう。今回の選挙では、「Emgage」というアメリカ人ムスリムのエンパワメントを推進する団体が中心となって、「100万人のムスリム票を大統領選に」とのキャンペーンが展開された。バイデンも、7月に実施されたアメリカ人ムスリムのサミット会議にメッセージを送り、支持を呼びかけた。
ムスリムの政治進出が、近年のアメリカにおけるムスリム人口の増加を反映していることは、間違いない。2017年に実施されたビュー・リサーチ・センターの調査では、米人口のうちムスリムは1%強であるが、その数は10年前から1.5倍弱に増加している。この勢いで増加すれば、2040年にはユダヤ人人口を超えて米国内でキリスト教に次ぐ第2の宗教人口となるだろう、と同調査は予測している。
声を上げ始めた新世代ムスリム
だが、単なる人口の問題だけではない。アメリカのムスリムにとって、自分たちがより積極的に政治にかかわっていかざるをえない環境が、過去20年間、米国内で続いてきた。2001年、ニューヨークとワシントンでの同時多発テロ事件が発生して以降、アメリカ全土にムスリムに対する偏見、憎悪、いやがらせが広がり、定着した。ムスリムに対するヘイト行為の頻発は言うまでもなく、キリスト教原理主義を掲げる教会でしばしばコーランが焼き捨てられるといった事件は、日常的に発生した。アフリカ系アメリカ人がその差別に反発してBLM運動を展開していったように、アメリカ人ムスリムの間にも、日常的な差別に対する不満が高まっていたのである。
ちなみに、同時多発テロ事件の後、アラブ系アメリカ人の団体が、イスラームの盟主を謳うサウディアラビアに対して、こうした反イスラーム的風潮を払拭するために、ムスリム擁護のためのロビー活動を支援してもらえないか、打診したことがある。アメリカのユダヤ・ロビーがイスラエルからの支援を得て、さまざまな形で米国政治に影響を与えているのだから、同様のことを在米ムスリムに対して海外のムスリム諸国が行ってくれてもよさそうなものではないか、というような意図があったのだろう。だが、サウディアラビアは動かなかった。在米ムスリムは、国外からの支援からは無縁だった。
今回の州議会レベルでのムスリム議員の増加の背景には、「外からの支援に期待できないなら自ら発言していくしかない」という、アメリカ人ムスリムの間での意識の変化があったのだろう。新人議員の多くが、まだ20歳代の若者であることが、そのことを示唆している。ミシガンのアブラハム・アイシュは26歳、デラウェアのマディーナ・ウィルソン・アントンは27歳、ニューヨークのゾフラン・マムダーニは29歳だ(なお、マムダーニの父は「アメリカン・ジハード」(2005年、岩波書店)などの著書をもちコロンビア大学で教鞭をとる、超有名な文化人類学・政治学者である)。彼らは、人生の3分の2以上を、母国の軍がムスリムの国を「対テロ戦争」で攻撃し、白人から「テロリストではないか」と疑いの目を投げかけられるなかで過ごしてきた。
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