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アングル:米金融業界首脳、貿易戦争による反米感情の高まりを懸念

2025年04月10日(木)17時00分

 米金融業界の首脳らは、トランプ米大統領が仕掛けた関税戦争への報復として、米国の投資銀行が欧州から締め出されることを覚悟している。写真は、ニューヨーク証券取引所のフロアで働くトレーダー。4月9日、ニューヨークで撮影(2025年 ロイター/Brendan McDermid)

Lananh Nguyen Sinead Cruise

[ニューヨーク/ロンドン 9日 ロイター] - 米金融業界の首脳らは、トランプ米大統領が仕掛けた関税戦争への報復として、米国の投資銀行が欧州から締め出されることを覚悟している。さらには反米感情の背景とした顧客のボイコットや、最悪の場合は厳しい規制の対象になるとも懸念している。

10人弱の銀行幹部やアドバイザーはロイターに対し、欧州連合(EU)の政府や企業が自国の金融機関との取引を拡大し、市場シェアが急激に低下する可能性に備えていると明らかにした。

2人の関係者によると、2つの銀行業界団体は欧州が地域での米銀の活動を制限するためにどのような行動を取る可能性があるかについて議論しており、少なくとも2つの大手銀行も内部で協議している。

EUが行使できる武器の1つとなるのが、経済的威圧をかける国に対して発動できる2021年策定の「反威圧措置」(ACI)だ。EUが外国の金融サービス企業に対して制限を加え、アクセスを制限することを可能にする。

一方、フランスのマクロン大統領は、トランプ氏が関税の大幅な引き上げを公表したのを受け、欧州企業に対して米国で計画している投資を中止するように呼びかけた。

JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)は今月2日のFOXビジネスの番組で、顧客からの反米感情が見られるかとの質問に「当社は既にいくつかの債券取引を失った。彼らは単に、米銀行と取引するよりも地元の銀行と取引したほうがいいとだけ言っている」と答えた。

EU欧州委員会は9日、トランプ米政権の鉄鋼・アルミニウム関税に対する対抗措置の第1弾を15日に発動すると表明し、中国やカナダに続いて報復に動いた。

これらの発表を受けてトランプ氏は、中国からの輸入品に対する関税をさらに引き上げる一方、多くの国に課すと表明した相互関税を一時停止すると発表。

EUのセフチョビッチ欧州委員(通商担当)は7日、あらゆる報復措置を検討する用意があるとして「単一市場を守るためにあらゆる手段を使う用意がある」と訴えた。

一方、欧州中央銀行(ECB)の当局者らは、ユーロ圏の経済が安定し、十分な資金が確保されるように全力を挙げていると強調した。

米銀を欧州の金融システムから切り離すのは容易なことではない。米銀の欧州での融資や預金に占める割合はごくわずかだが、デリバティブ(金融派生商品)といった証券取引の一部では支配的な地位にある。

2008年の金融危機後、米銀は欧州企業に多額の投資をしており、英国のEU離脱(ブレグジット)後にさらに増やした。ブレグジットの際、EUは米銀に対して追加資本と現地従業員の増加によるEUでの拠点強化を要求し、数千人の雇用創出につながった。

米銀は収益の地域別内訳を公表していない一方で、JPモルガンの米国外での国別収益ではドイツが首位、英国が2位、フランスが4位となっている。

LSEGのデータによると、JPモルガンが25年第1・四半期に欧州で得た投資銀行業務手数料は約5億1400万ドル(約771億円)と、全体の8.2%を占めた。

この問題に詳しい別の情報筋は、欧州は複雑なブレグジットを乗り越えた経験を生かすことができると指摘する。その上で米金融企業への規制は部分的になる可能性があるとの見方を示す。

<失われつつある優位性>

ある金融機関幹部は「米銀の優位性は失われつつある」と話す。

別の情報筋は、顧客は証券取引で米銀から欧州の取引先に乗り換えるべきかどうか議論しているとし、これまではこのような議論はなかったと解説した。

EUに拠点を置くアドバイザーの一部は、取引で地元の銀行を採用することが既に増えていると指摘する。

金融が貿易戦争の武器に利用されかねないという米金融業界の懸念は、欧州の同盟相手も共有している。彼らはクレジットカードへのアクセスや、銀行へのドル供給が制限されることを懸念している。

ロイターは3月、欧州の一部の政府関係者が、市場にショックが起きた時に米連邦準備理事会(FRB)がドル資金を供給してくれるのかどうかに疑問を抱いていると報じた。

1人の情報筋は「欧州にとっては、その国の主要企業を好むのかどうかという話になる」と言及した。欧州の投資銀行は米銀に比べてバランスシートが小さく、米銀ほど懐が深くない。

ある金融機関幹部は「無差別な反米主義が見られるが、それは長くは続かない。このような感情の高まりは瞬間的で、企業は合理的な経済的利益に立ち戻るようになるだろう」との見方を示した。

米経済研究所の政治エコノミスト、サミュエル・グレッグ氏は英国やEUで事業展開している米金融機関に規制を設けた場合、欧州にとって自傷行為になると警告する。その上で「米国の関税引き上げが欧州経済にもたらすであろう損害に拍車をかけるだろう」との見解を示した。

ロイター
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