焦点:ルイ・ヴィトン、テキサスの生産苦戦 米拠点拡充で試練

フランスの高級ブランドグループ、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)が米南部テキサス州で稼働させている傘下ブランド「ルイ・ヴィトン」のハンドバッグ工場は6年前、ベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)が第1次政権時代のトランプ大統領を招いて華やかな落成式を行った。写真は敷地内の正面にあるランチ様式家屋。工場は木々の後ろにあり、ほとんど見えない。3月24日撮影(2025年 ロイター/Shelby Tauber)
Tassilo Hummel Waylon Cunningham
[アルバラード(米テキサス州)/パリ 10日 ロイター] - フランスの高級ブランドグループ、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)が米南部テキサス州で稼働させている傘下ブランド「ルイ・ヴィトン」のハンドバッグ工場は6年前、ベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)が第1次政権時代のトランプ大統領を招いて華やかな落成式を行った。
それ以来、工場はさまざまなトラブルを抱えて生産能力がずっと限られた状態にあることが、ルイ・ヴィトンの元従業員11人の話で明らかになった。また、別の元従業員3人やある業界幹部の話では、同工場は他のルイ・ヴィトンの工場に比べて、常に著しく成績が悪いようだ。
こうした事態は、欧州からの輸入品に高い関税を課すというトランプ氏の方針に対応するため、米国内の生産拠点を拡充させたいLVMHにとって、その道のりが険しいことも浮き彫りにしている。
ルイ・ヴィトンの生産責任者を務めるルドビック・ポシャール氏は、テキサス工場を巡る問題についてロイターの取材に応じ「生産力増強はわれわれが想定していたより難しかった。これは真実だ」と語った。
3人の元従業員はロイターに、テキサス工場が苦戦を強いられている理由として、品質基準を満たせる製品を製造できる皮革加工技能を備えた労働者がいないことだと説明。このうちの1人は「『ネヴァーフル』のバッグで簡単なポケットを作ることができるまででも、何年もかかっていた」と述べた。
テキサス工場では、裁断や組み立てなどの過程で生じた加工の失敗により、大型動物の分厚い皮革(ハイド)の最大40%が廃棄されていた、と内部事情を知る元従業員は証言する。業界の一般的な皮革製品の廃棄率は20%とされる。
このような作業ミスが起きる背景として複数の元従業員は、毎日課せられるノルマの重圧を挙げた。生産量押し上げのため、工場の監督者は常に各種の手段を通じた不良箇所の隠ぺいを黙認し、場合によっては積極的に推奨したという。
ポシャール氏も、過去にはそうした事例があったと認めたものの「これは2018年の件で(関与した)1人のマネジャーはもう会社にいない」と強調した。
売り物にならないほど出来が悪かったハンドバッグは現場で寸断され、トラックで運ばれて焼却処分されている、と2人の関係者は話す。
テキサス工場にしばしば出張していた元生産監督者は、ルイ・ヴィトンがこの工場で生産していたハンドバッグは大半が低価格モデルで、最上位モデルは別の工場が作っていたと述べた。
ポシャール氏は、設立から日が浅い工場についてルイ・ヴィトンは「忍耐強い」姿勢を取っているとした上で、テキサスで生産されたバッグの品質が欧州産の製品と何か異なるとは認識していないと付け加えた。
<メイドインUSA>
テキサス州の工場ではルイ・ヴィトンの「フェリーチェ」のポシェットや「メティス」のバッグの完成品と部材が「メイドインUSA」のタグを付けて生産されている。これらの製品の高級ブティックにおける販売価格はそれぞれ約1500ドルと3000ドルだ。
ロイターが取材した元従業員は、同工場には「フェリーチェ」「キャリーオール」「メティス」「キーポル」「ネヴァーフル」の生産ラインがあったと述べた。
数年前に移民として米国に来たという元皮革加工従業員の女性は、フランスの高級ブランドに採用されたことを誇りに思ったが、一部の労働者は会社の品質基準や生産目標の達成に四苦八苦していたと話す。
2019年に工場を辞めたこの女性は「日々の目標実現を迫られる重圧は大きかった」と振り返った。
また23年まで工場で働いていたという女性は、特に作業が難しい「ヴァンドーム・オペラ」バッグの加工でうまく出来上がらなかった部分を隠すため、皮革や布地を熱で溶かしたことがあったと明かした。
別の元従業員も、穴などの不具合部分を隠す目的で部材を溶かしている労働者を目撃したとしている。
ルイ・ヴィトンの国際製造ディレクター、ダミアン・フェルブリッヘ氏は、テキサス工場では厳しい品質基準を守れず、配置転換されたり、退職したりした人がいたと認めた。
職人として採用され、数週間ないし数カ月の訓練を経ても、期待されて必要とされる水準に達しないと認識した人たちは流通など別の分野で働くことになるし、職人はさまざまな機転を要求される以上、退職を選んだ人もあると説明する。
3人のテキサス工場元従業員は、いずれも2─5週間の訓練を受けたと話す。ただ、現在フランスで働いているルイ・ヴィトンの従業員は、数週間だけの訓練というのは決して異例ではなく、仕事の大半は実際に生産ラインに入って、より経験豊富な先輩たちから学ぶものだと述べた。
<人員増強計画>
LVMHのテキサス工場は、同州ジョンソン郡から10年間の不動産税75%減免を含めた各種税制優遇措置を受けている。
ロイターが情報開示請求に基づいて入手した2017年のLVMHの文書には、向こう5年で500人の雇用を目指すと記してあった。19年の工場落成式でアルノー氏は、5年間で約1000人の高技能職を創出すると表明していた。
しかしフェルブリッヘ氏が確認したところでは、今年2月時点でも従業員数は300人に届いていない。
ポシャール氏は、当初採用活動が難しかったのはコロナ禍による側面が大きく、地元の労働需要の低下も一定の影響があったと述べた。
それでもLVMHはテキサスでの人員増強を進める計画だ。昨年秋、カリフォルニア州の同社工場に勤務していた従業員らは、工場は2028年に閉鎖する予定で、テキサス州への異動か退職かを選べと通告されたという。