「〇〇十周年」が重なった中東の2021年......9.11、ソ連解体、湾岸戦争、アラブの春
米軍アフガン撤退で中東は新たな局面を迎えた(アフガニスタンの首都カブールを警備するタリバン兵、10月15日) Jorge Silva-REUTERS
<アメリカのアフガニスタン撤退を機に、いま中東は近代では前例のない「超大国の不在」を経験しつつある>
今年も終わりに近づいている。
2021年という年は、いろいろな出来事の〇〇十周年に当たる年だった。まずは、9.11米国同時多発テロ事件から、20年。20年間にわたるアフガニスタン駐留に終わりを告げ、記念すべき日に華々しく撤退するはずだったのが、ターリバーンの復活に追われるように敗走するはめになった米軍とその同盟軍の姿は、この8月繰り返しニュースの話題となった。
9.11には、その10年前、今から30年前の1991年に起きた出来事が密接に関係している。一つは、ソ連の崩壊だ。1991年12月25日、当時のソ連大統領だったゴルバチョフが辞任した結果、ソビエト連邦は解体され、今のロシアとその他12の共和国が「独立国家共同体」として新たに出発した。ここに米ソの東西対立、冷戦構造は終焉を迎えたのである。
冷戦の終結は、アメリカの一極支配を生んだ。冷戦の二極対立構造の間をうまく立ち回り、二大超大国からの政治的、経済的援助を引き出してきた第三世界の多くは、そうした駆け引きがもはや通用しないことを認識せざるを得ず、アメリカとの向き合い方を見直すことになった。そのなかで、アメリカの外交政策に対する不満、反感は、行き場のない袋小路に吹き溜まり、アルカーイダに代表される反米集団となって、9.11への道を歩んでいった。
ちなみに、ソ連解体、冷戦終焉の背景に、ソ連のアフガニスタン軍事侵攻の失敗があることは、良く知られている。10年にわたる軍事介入でソ連兵は1万4000人近くの戦死者を出したが、不毛な戦争に関わることの無意味さをひしひしと感じる帰還兵士の間には、厭戦感と殺伐としたムードが漂い、政権批判へとつながった。1979年のソ連のアフガニスタン侵攻は、アメリカには9.11事件をもたらし、ソ連には国家解体をもたらしたといえる。
もう一つの「30年前」の大事件は、湾岸戦争である。前年にクウェートを軍事占領したイラクに対して、唯一の超大国となったアメリカが国連を前面に立てて「武力制裁」を行った。解体前のソ連も、かつての反米アラブ諸国の多くも、イラクに対する武力行使を容認する国連決議に賛成し、冷戦後の国際秩序を維持し、国際社会における米主導での一致団結が確認された。冷戦後のアメリカの勝利の第一歩が湾岸戦争だったのである。
冷戦後の米一極体制
だが、その勝利の影で、不満を募らせていたのが、かつてアフガニスタンでソ連と対峙したアフガン・アラブだった。のちにアルカーイダとなるアラブ人反共戦士たちのなかにはウサーマ・ビン・ラーディンがいたが、湾岸戦争で米軍を国内の基地に迎え入れたサウディ政府に反発し、祖国を追われた。流浪の反米戦士となったビン・ラーディンは、5年後にはアフガニスタンにわたり、アルカーイダを主導し、2001年にアメリカの軍事と経済の中枢を攻撃する。
30年前の出来事と20年前の出来事が密接につながっているのだとしたら、もうひとつの「○○十周年」である「アラブの春」は、どう結びつくだろうか。ソ連が解体し、旧社会主義諸国が雪崩をうって「民主化」したのに、一向に「民主化」が訪れる気配がなかったアラブ諸国で、2010年末から2011年にかけて、初めて民衆の手によって長期独裁政権が、倒されたり揺らがされたりした。
それまでアラブ諸国で政権が代わるのは、ほとんど軍の手によるものでしかなかった。その軍を政権内に取り込んで強固な権威主義体制を確立してきたアラブ諸国では、30年以上にもわたる長期政権が続き、それが倒れるには、イラクやアフガニスタンで行われたように、米軍という絶大な軍事力を持つ外国の手を借りるしかなかった。それでいいのか? という意識が、「アラブの春」の根底にあったものと考えられる。長期独裁政権を外国軍の手によって倒され、その後確立された親米政権は、果たして現地社会に幸せをもたらしたか? アフガニスタンとイラクでの2000年代は、その問いにただただNoを突きつけるものだった。
ソ連の協力を仰いだり、アメリカに民主化支援を求めたり、とかく外国頼みだった国内の反政府活動の戦略は、冷戦後はもはや役に立たない。ましてやアフガニスタンやイラクでの軍事力による政権転覆を見れば、外国頼みがいかに危険なことかがわかる。自国の政府を倒すには、自ら政府に向き合うしかない――。そんな自立心が生まれたのが、10年前のわずかな期間だった。
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