コラム

ブレグジットはなぜここまでこじれたのか? 「典型的な離脱支持者たち」はこう考える

2019年10月16日(水)15時45分

EUはフェアに交渉しているというが、それはうそだ。もしイギリスがEU加盟国でない国だったら、EUはイギリスと誠実に貿易交渉をし、良い関係を探るだろう。だがイギリスのEU離脱交渉は、双方にとって有益な取引を確立しようというのではなく、イギリスを罰しようという方向へと動いている。この交渉でEUがしていることといえば、イギリスが新たな離脱案を提案しては、EU側が受け入れられないと拒絶する、というそればかりだ。

EUのこのやり方を見れば、EUの本質が分かる。EUは加盟国の経済に損害を与えようとし、イギリスとの関係を壊そうとしている(友好的な関係のままでいることもできたはずなのに)。EUは自らの権力を維持するため、そして欧州大陸の主権国家の数々よりもEUという超国家的機関の権力を最大限に集中させるという「プロジェクト」を追求するために、こんな手法をとっている。

親EU派につぶされたサッチャー

ブレグジット阻止のために最高裁判決に頼るなんて、イギリスではかつてないような出来事だ。富と権力を持つ人々がその富と権力を使って政治プロセスに介入するということなのだから。司法が政治に関与するなんて、これまでのイギリスではまれだった。

最後に、これはちょっと関連がある話だが、チャールズ・ムーアによるサッチャーの公式伝記本の最終巻が最近出版された。この伝記は、サッチャーの失墜が、EUのさらなる権力強化を狙う反サッチャー派によって引き起こされたのだという事実を、僕たちに思い出させる。

サッチャーは当時、EUの前身であるEEC(欧州経済共同体)に好意的な現実主義者だったが、EU統合の深化とEUの連邦主義には、1990年の有名な演説で異議を唱えた(「No, no, no」で知られる発言だ)。これが、親EU派の外相ジェフリー・ハウの辞任を招き、彼はその際にサッチャーのリーダーシップを批判した。

この一件が引き金となって、親EU派マイケル・ヘーゼルタインはサッチャーとの対決姿勢を強め、サッチャーの保守党党首辞任、さらには親EU的なジョン・メージャーを後継にして首相の座も退くよう求める運動を主導した。

だからある意味、3度の総選挙に連続で勝利を収めた、僕たちの時代で最も成功した首相は、EUの権力拡大を阻止しようとしたがために、英国会内の親EU一派によって排除されたのだ。今に通じる話だろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ドバイ国際空港、2024年の利用者は過去最多の92

ワールド

民間機近くの軍用ヘリ飛行を疑問視、米上院議員 空中

ワールド

ロシアの穀物輸出、EUの船舶制裁が圧迫 中銀が報告

ビジネス

大阪製鉄が自社株TOBを実施、親会社の日本製鉄が応
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story