コラム

「嫌な奴」イーロン・マスクがイギリスを救ったかも

2025年02月07日(金)18時58分
イーロン・マスク

何かと物議を醸すマスクだが MIKE SEGAR-REUTERS

<嫌われる要因だらけのマスクだが、彼が蒸し返したおかげで動き出したイギリスのある大事件とは>

イーロン・マスクの不幸を願わないようにするなんて、氷の心じゃなければ無理だろう。彼を嫌う理由は山ほどある。

馬鹿みたいな巨額の富から来る特権意識、自分の意見は誰のものよりずっと価値があるかのようなうぬぼれ、遺伝子プールを豊かにするのが使命だとでも思っていそうな子作りぶり......(ドイツ人が言うところの「ビンタを食らわせたくなる顔」まで持っている)。

これはまだ序の口にすぎない。マスクはさらに、アメリカで政治的権力を駆け上る道を「購入」し、他国の「誤った」政策を正すことが自らの権利と義務であるかのように振る舞うようになった。イーロン、頼むから口をつぐんで失せてくれ。

残念、それでも僕は彼を弁護しなければならない。ジョージ・オーウェルの言葉を借りるなら――イーロン・マスクが言ったからといってそれが必ずしも間違いを意味するとは限らない。

前述のとおり僕はマスクが好きではないが、トランプ米大統領(とマスク)が勝ったのは、アメリカの有権者が彼らを選んだからだ。他国の政治に「干渉」するのも、別に彼が初めてじゃない。

例えば、英労働党の活動家は昨年、ハリス米副大統領の選挙応援のためアメリカに飛んだ。オバマ元大統領は2016年にイギリスに来て、ブレグジット(EU離脱)に賛成票を入れないようにとイギリス人に警告した。

マスクは幼稚で嫌な奴かもしれないが、俗に言うように、言論の自由とは人々が自分の気に入らないことを自由に話す権利を守ることなのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

サムスントップ巡る訴訟、検察が最高裁に上告

ワールド

中国、米の「妨害」工作非難 パナマの「一帯一路」離

ビジネス

焦点:トランプ政権の注目、FRBから10年債利回り

ビジネス

台湾輸出、1月は前年比+4.4%、トランプ関税警戒
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 3
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮兵が拘束される衝撃シーン ウクライナ報道機関が公開
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 6
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 7
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 8
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 9
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 10
    スーパーモデルのジゼル・ブンチェン「マタニティヌ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 6
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 7
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story