コラム

イギリス流のトランプ操縦術が始動

2025年03月05日(水)21時55分
スターマー英首相とトランプ米大統領の会談

スターマー(左)はまずはトランプ懐柔に成功か KEVIN LAMARQUE–REUTERS

<トランプ米大統領がロシアに近付きウクライナと欧州諸国を軽視するなか訪米したスターマー英首相が取った作戦とは>

冷戦の終結は、ソ連がアメリカ側に加わりイラクのクウェート侵攻を非難する国連決議に賛成した1990年11月だ、とされることがある。

2025年2月は、その希望に満ちた瞬間の恐るべき「鏡映反転」のようなものかもしれない。プーチンのウクライナ侵攻3年を非難する国連決議において、アメリカがロシアや「のけ者国家」数カ国と共に反対に回ったのだ。


さらに衝撃的なことに、米高官がサウジアラビアの首都リヤドでロシア高官と会談し、ウクライナの未来についてウクライナ(やヨーロッパ)抜きに協議したことは、ヨーロッパの目には「ミュンヘンの瞬間」と映った。1938年に当時のチェンバレン英首相がヒトラーと会談し、チェコスロバキアの一部領土を要求されるがまま割譲させた、英外交史最大の恥ずべき瞬間に匹敵する。

決定的な違いの1つは、ヒトラーが怪物であるという歴史上の常識が、まだ判明していなかったという点だ。チェンバレンは、いじめっ子の戦争屋をひどく見当違いになだめてしまったが、今のアメリカと違い、侵略と戦争犯罪の実績が証明されている人物と交渉していたわけではなかった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツの防衛・インフラ支出拡大、AAA格付けにプラ

ビジネス

高関税課せられれば、対米投資「なかなか困難に」=石

ワールド

韓国CPI、2月は前年比+2.0% 4カ月ぶりに鈍

ビジネス

預金準備は潤沢、QT継続の余地ある=NY連銀幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行為」「消費増税」に等しいとトランプを批判
  • 4
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 5
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 10
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 8
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 9
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story