コラム

イギリス流のトランプ操縦術が始動

2025年03月05日(水)21時55分

トランプ米大統領が何をしようとしているのか、イギリスでは意見が分かれている。最も希望的な観測は、彼がアメリカの利益のために物事を揺さぶるただの破壊者、というものだ。

この考え方では、トランプは誰も成し遂げられない戦争終結を実現できるかもしれないし、安全保障の多大なコストをアメリカに頼るヨーロッパに衝撃を与えるかもしれない。


また別の観測は、根本的な変化が引き起こされるというものだ。トランプは西側同盟や歴史を気にもかけず、「イデオロギー」より「取引」を重視し、喜んでロシアと友達になり、誰とでも取引をする。

さらに、トランプの人格のプリズムを通して考える人々もいる。彼は世界最大の権力を好むので、大きく政策転換をしては各国リーダーたちが仲間にしてくれと乞いに訪れるのを楽しんでいるのだ、と。

率直に言って、誰も本当のところは分かっていない。だから、2月27日に訪米してトランプと会談したスターマー英首相は、あらゆる可能性を考慮して政策を進めるのが賢明だ。会談に先立ちスターマーは、英防衛費を27年までに2%から2.5%に引き上げると発表した。これは、イギリスは防衛責任を真剣に受け止めるからわれわれのところに戻って来てほしい、とのシグナルだ。

このためにスターマーはODA予算をGNI(国民総所得)の0.5%から0.3%にまで削減した。スターマーの労働党はこれまでは、近年までの0.7%の水準にまで回復したいと公約していた。公約とは正反対の決定をすることでスターマーは、もはやアメリカ依存が許されないはるかに危険な時代に備えねばならない、とのメッセージをイギリス国民に送っている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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