コラム

イギリス流のトランプ操縦術が始動

2025年03月05日(水)21時55分

イギリスと隣国フランスとの関係が、第2次大戦以来ここまで強化されたこともなかった。英仏間の細かなトラブルの数々も、ウクライナ防衛に始まりヨーロッパの安全を確立する共通の必要性に比べれば、今となっては取るに足らないものに思われる。

スターマーと仏マクロン大統領は、立て続けの訪米でトランプのアメリカを伝統的な同盟に引き戻そうと足並みをそろえており、さながら現代版「英仏協商」といったところだ。


だからといって、イギリスがEU再加盟を考えるべき理由にはならない。EUは相互安全保障の意味合いはなかったから、ブレグジットも安全保障問題とは何ら関係がなかった。事実、EUを出たイギリスはトランプのアメリカにEU以上の影響力を発揮していると言えるかもしれない。

端的に言うと、トランプはイギリスを好み、EUを嫌っているようだから、イギリスは仲介役にもなり得る。共通の言語や文化的親近感、歴史的友好関係などの伝統に基づいた、英米のいわゆる「特別な関係」に、新たな展開が訪れている。

最善を期待し、最悪に備える

第2次大戦の際には、チャーチル英首相とルーズベルト米大統領は歴史上の名コンビを組んだ。チャーチルの胸像は、以前にオバマとバイデンによって撤去されたが、今はトランプの執務室に置かれている。サッチャー英首相とレーガン米大統領は思想的にも個人的にも非常に親密だったので、「政治的結婚」とも言われた。

チャールズ英国王がトランプに史上初の「2度目の国賓招待」を持ちかけたのは、明らかに彼を口説くための作戦だ。

トランプは「気まぐれ」とみられており、さらにトランプの母親がスコットランドの貧困層の生まれであるため、バルモラル城への招待で祖先の地への栄光の帰還をお膳立てするのが狙い、というのが共通認識だ。少なくとも、スターマーの訪米は友好的なスタートとなった。

トランプと前向きかつ積極的に外交関係を築くことで、スターマーは「最善を望み」つつ、同時に防衛費を引き上げ、欧州同盟国と関係を強化することで「最悪に備え」ている。

ニューズウィーク日本版 トランプ関税大戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月15日号(4月8日発売)は「トランプ関税大戦争」特集。同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、USスチール買収巡り新たな審査を当局に

ビジネス

米国株式市場・午前=一時切り返す、トランプ関税の9

ワールド

マスク氏は「自動車組み立て業者」と米大統領顧問、「

ワールド

日本は貿易交渉に「トップチーム」派遣、トランプ氏 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    フジテレビが中居正広に対し損害賠償を請求すべき理由
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 10
    ユン韓国大統領がついに罷免、勝利したのは誰なのか?
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 7
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 8
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 9
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story