コラム

買い物と借金狂いのイギリス人

2018年01月24日(水)15時10分

昨年のロンドンのクリスマスシーズン Simon Dawson-REUTERS

<クリスマスの大量消費は本当にイギリスの人々のストレスになっていて、「お祝いシーズン」どころの話ではない>

僕は最近、神戸に住んでいた時代からの古い友人と、イギリスに帰国後の僕の暮らしについて話していたのだけれど、彼が言うには、僕の話を聞いていると浦島太郎を思い出すらしい。僕は日本に約15年暮らし、イギリスに戻ると以前とはまるで違う国に感じられた。イギリスを去っていたその期間に、僕はイギリスと歩調を合わせて変化してはこなかった。

それが如実に現れたものの1つが、借金や大量消費への嫌悪感だ。僕なら買うお金もない時に物を買おうなんて考えもしないけれど、イギリスの人々はしょっちゅう、多額の借金を抱える。彼らが僕よりずっとカネを浪費する一方で、僕は倹約して生活している(というか、彼らからしてみれば僕は「ケチ」であり、彼らは「カネは使うためにあるでしょ」と思っている)。僕はこの件に関しては古風なのだ。

そのギャップを何より感じるのが、クリスマスだ。誰もがクリスマス時期の大量消費を「クレージーだ」と言うけれど、そういう彼らがこぞって買い物に出掛けては、前の年よりたくさんのプレゼントを買って贈り合う。

子供たちは何十個もの高価なプレゼントの包みをビリビリと開き、そのうちの多くは1度たりとも使われずに終わる。クリスマスがおもちゃをゲットする唯一の時だというわけでもない。子供たちは誕生日やその他たくさんの機会(祖父母が遊びに来た時だの「どうしても、どうしても、どうしてもほしい」ゲームソフトが新発売された時だの)にも、山ほどプレゼントをもらっている。

僕が本当に嘆かわしいと思うのは、人々が昔と比べ、プレゼントに頭を使わなくなっているように見えるところだ。値段に関わらず贈る相手が本当に喜びそうな物を選ぶ(僕はいつもそうしようとしている)、というよりむしろ、何か高価な物を1つ買おうか、それとも総額が同じになるように何個か組み合わせようか、といった具合なのだ。まるで、問題は金額だといわんばかりだ。

クリスマス「シーズン」はクリスマスの約8週前、11月前半に始まる。伝統的な「クリスマスの12日」とは程遠い。これはつまり、店が人々に物を買わせたいからだ。彼らは店を飾り付け、クリスマス音楽を流し、今年は早めに買い物を済ませたほうがいい、と警告する。時にはそのとおりにする人もいる。でもクリスマスの数日前まできてしまうと人々はパニックになり、大事を取って必要以上の物を買ってしまったりする。

今回のクリスマスには、たまたま僕はあるスーパーマーケットの割引クーポンを持っていたので、早くからミンス・パイをいくつか買っておいた。そうしたら何ということだろう、しばらくたってから、この「伝統的なクリスマスのごちそう」が、クリスマスの3週間前に「消費期限」を迎えてしまうことに気付いたのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゴールドマン、米自動車販売予想を約100万台下方修

ビジネス

関税の米経済への影響「不透明」、足元堅調も=ボウマ

ワールド

米、豪州への原潜売却巡り慎重論 中国への抑止力に疑

ビジネス

米3月CPI、前月比が約5年ぶり下落 関税導入で改
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた考古学者が「証拠」とみなす「見事な遺物」とは?
  • 4
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 9
    【クイズ】ペットとして、日本で1番人気の「犬種」は…
  • 10
    「宮殿は我慢ならない」王室ジョークにも余裕の笑み…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story