ドイツの街角から
ドイツワイン業界の最新トレンド ヴィノテーク建築賞受賞ワイナリーを訪ねて・その2
ドイツのヴィノテーク建築は「美味しいワインと共に新顧客を魅せる営業ツール」と、 前回お伝えした。今回はリースリングの代表産地として有名なモーゼル地方のヴィノテーク建築賞受賞ワイナリーをお届けします。
モーゼル川、ザール川、ルーヴァー川流域のワイン生産地区は、ローマ人がぶどう栽培の技術をもたらし、この地を利用してワインを醸造し始めたドイツで最も古い産地として知られている。つぐみ横丁で知られるラインガウと並び、優れたワインを産出する地区だ。
伝統的なリースリング種の栽培地として有名で、急斜面のブドウ畑が特徴。最も温暖な地方のひとつで、ブドウ品種はリースリング、ミュラー・トゥルガウ、ドルンフェルダー、シュペート及びヴァイスブルグンダーなど白ワインがほとんど。
▽ 湖畔の弱点「氾濫」に対応したワイナリーダックス (モーゼル)
ワイン生産村エルンストのワイナリーダックスを訪問。現在7代目オリバーさん(画像右・左はご両親)を中心とした家族経営のワイナリーで、約5ヘクタールの畑にリースリング、ピノ・グリ、ケルナー、バッカス、ゲヴェルツトラミナー、ピノ・ノワール、ドルンフェルダーなどのブドウを栽培し、ワイン造りをしている。
オリバーさんは、「ここに建っていた家は、あまりにも老朽化していたため、改築はできなかった」と明かす。2019年に完成したヴィノテークに足を踏み入れると、新築の匂いがどこからともなく漂う。
ヴィノテークの壁はコンクリートを打ちっぱなしで、一見すると殺風景。だがここには住民ならではの知恵が詰まっていた。通りを挟んですぐモーゼル川があり、テラスからはロマンチックで魅惑的な眺めが楽しめる反面、川の氾濫に巻き込まれる危険性が常にある。
そのため1階にはパレットや段ボールでできたテーブルがあり、浸水した際すぐに片付けられる造りにした。また販売カウンターや棚は、家族の家の屋根や壁の骨組みに使われていたオークの古材を加工した堅牢な素材を用いた。アイフェル産の玄武岩と合わせて、調和のとれた現代的なイメージに生まれ変わった。
2階のテラス席からモーゼルの対岸にあるヴァルヴィガー・ヘレンベルクの急斜面のブドウ畑が広がり、景観が素晴らしい。
▽ 歴史的なブドウ品種ワインが誇り ワイナリーキューナー・アダムス (モーゼル)
著者プロフィール
- シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko