ドイツの街角から
ドイツワイン業界の最新トレンド ヴィノテーク建築賞受賞ワイナリーを訪ねて・その2
キューナー・アダムスのワイナリーでは、控えめなシックさと、古いワイン醸造家の家の歴史的環境が融合している。なんと試飲室は、古い干し草置き場だったという。モーゼルの砂壁、漆喰の上に敷かれたパイプ、オーク材のキャビネット、モダンな家具など、さまざまな素材が印象的に融合し、100年前の屋根梁に守られている。
ここでは、採石場の石壁の復元、スレート石や自然石ブロックの使用、窓や床板、オーク材の階段の改修、イタリアから調達したオリジナルタイルを使ったという。
ガラス窓から眺める通りやモーゼル川、ブドウ畑の最高の景色が素晴らしい。またテラスやブドウ畑にもテーブルとイスが用意されている。アパートメントも一部屋提供中で、都会の喧騒から離れて自然とワインを楽しむ客層に人気だそう。
絶滅寸前で発見されたブドウ品種「ゲルバークラインベルガー」で造られたここならではのワイン(画像)を是非味わってほしい。
また体験型ワインティスティング「GO AND STOP 」もお薦め。ブドウが栽培されている畑でワイン試飲も人気(画像はオーナー娘さん)。まずはシャンパンレセプションを行った後、ハイキングに出発(GO)、興味深いポイントに立ち寄り(STOP, スナックとワインを味わいながら、ブドウ畑と地学やワインを学ぶことができる。
▽ ザールワインのフラグシップ ワイナリーファン・フォルクセン (ザール)
このワイナリーはかつて修道院の醸造所だったが、19世紀以降はビール醸造所を経営するファン・フォルクセン家が所有。その後、経営者が変わり、最終的には1999年にビール会社ビットブルガー社創業者のひ孫ローマン・ニヴォニツァンスキー氏が醸造所を継ぎ、2019年にファン・フォルクセンの名を蘇らせた。
ザール地域ヴィルティンゲン村のゴッテスフース、シャルツホーフベルクなどの特級畑を所有。栽培品種はリースリングが96%を占める。ワインは地域のトップに属し、ザールワインのフラッグシップとなった。
同氏は、自身のワイン哲学の核となる価値を建築とデザインで表現したいと考え、「透明感、エレガントさ、精密さ」をモットーにヴィノテークを築いた。建物の最も重要な構造要素である自然石は、スレートでできたブドウ畑のミネラルワインにちなんでいる。また太陽光発電システムによる発電で、すべての電力を賄っている。
ヴィルティンガー・シュロスベルクにあるブドウ畑の中に、塔のように建っているヴィノテークとビジターエリアは、遠くからでも認識でき、ここを目指して立ち寄る人も多いそうだ。貝殻石灰岩を用いたファサードは、ヴィルティンガー・シュロスベルクからザール川を見下ろす高台で重厚な存在感を示している。毎年4万人(コロナ禍前)の見学者が訪れ、ワインを嗜み、絶景を満喫しているという。
ローマン氏は、「日本の航空会社のファーストクラスでファン・フォルクセンワインが供されています」と教えてくれた。
▽ まるでプライベートダイニング室 ワイナリーカンツハイム (ザール)
著者プロフィール
- シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko