コラム

インテリジェンス機関をもてあますトランプ大統領

2017年07月21日(金)18時10分

トランプ大統領は、コーミーFBI長官を解任した Joshua Roberts-REUTERS

<トランプ大統領は、インテリジェンス(諜報・情報)に関して、まったくの素人だった。自らが上に立つインテリジェンス活動の大きさと内容に驚き、どう扱って良いのか困っている。それが現在の混乱を生んでいるのだろう>

歴代の米国大統領がインテリジェンス(諜報・情報)機関とどのような関係を築いてきたのかは興味深いテーマである。

特に、現在のドナルド・トランプ大統領が中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NSA)、連邦捜査局(FBI)といった主要なインテリジェンス機関との関係構築に失敗していることは、トランプ政権の外交政策・安全保障政策に少なからぬ影響を与えることになるだろう。

FBIは、本来は法執行機関(警察)の元締めだが、カウンター・インテリジェンス(防諜)という役割でインテリジェンス・コミュニティの一角を担っている。そのFBIが大統領選挙に深く関与し、そして、新政権発足後100日あまりという中途半端な時期にその長官が解任されるという異常事態が起きた。

そもそも米国には16の専門化されたインテリジェンス機関と、その元締めとなる国家情報官室(ODNI)、合わせて17のインテリジェンス機関が存在し、それらがインテリジェンス・コミュニティを形成している。近年の大統領たちとインテリジェンス機関の関係を振り返った上で、トランプ政権について考えてみたい。

CIA長官だった第41代ブッシュ大統領

1974年、ジョージ・H・W・ブッシュ、いわゆる「パパ・ブッシュ」は、ジェラルド・フォード政権時代に米中連絡事務所所長に任じられている。1972年のリチャード・ニクソン大統領による訪中後、正式に米中の国交が正常化するのは1979年のジミー・カーター政権時代になるが、その間、北京には米中連絡事務所が設置され、その所長は実質的な大使の役割を担っていた。それ以来、ブッシュ家は親中として知られている。

ところが、14カ月後の1976年にブッシュはワシントンDCに呼び戻され、フォード大統領によってCIA長官に任命される。ブッシュはこのポストが気に入り、長く務めることを望んでいたが、その任期は1年に満たず、1977年にカーター政権が成立すると、辞任させられることになった。

彼のCIA長官としての任期は短かったが、大統領を退任した後の1999年、バージニア州ラングレーにあるCIA本部は彼の名前を取って「ジョージ・ブッシュ・センター・フォー・インテリジェンス」と命名された。ブッシュ大統領が1990年の湾岸危機、1991年の湾岸戦争を通じてインテリジェンス・コミュニティと良好な関係を築いたことがその理由だろう。

2001年の息子のジョージ・W・ブッシュ政権時代に対米同時多発テロが起き、その後に機構改革が行われるまで、米国のインテリジェンス・コミュニティ全体を統括する中央情報長官(DCI)というポジションは、CIA長官が兼任することになっていた。そのため、それまではCIA長官との関係が、インテリジェンス・コミュニティ全体との関係を意味していたと言って良い。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタン、国防相が核管理会議の招集否定 インドに

ワールド

韓国与党、大統領選候補指名やり直し 韓前首相に一本

ビジネス

中国4月CPI3カ月連続下落、PPI下落加速 貿易

ビジネス

米政権、航空機・部品輸入を調査 追加関税の可能性
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story