コラム

インテリジェンス機関をもてあますトランプ大統領

2017年07月21日(金)18時10分

トランプ大統領とインテリジェンス機関

2017年7月20日現在、DNI、FBI、CIA、NSAの四つの長官ポストのうち、留任しているのはNSAのロジャーズ長官だけになった。ロジャーズ長官は、実は、オバマ政権末期、組織変更をめぐってホワイトハウス、国防総省、その他のインテリジェンス機関と対立し、物議をかもした。アシュトン・カーター国防長官やクラッパー国家情報長官は、NSAとサイバー軍の兼任を解き、別々の人に担わせるべきだと主張し、ホワイトハウスもそれを支持していたようである。秘密のインテリジェンス活動を担うNSAと、サイバー攻撃を行うサイバー軍とでは役割が違うからだ。しかし、ロジャーズは、攻撃と防衛は表裏一体であるとして兼任を主張した。

ロジャーズは大統領選挙の結果が出た時点でトランプと接触し、彼自身は軍の統合参謀本部の副議長になるのではないかという見方もあった。しかし、その話は実現せず、今のところは留任している。NSA長官とサイバー軍司令官も兼任したままである。

トランプ大統領とインテリジェンス機関の関係はどうなっているのか。

トランプ大統領は就任早々、バージニア州ラングレーにあるCIA本部を訪問し、CIAと自分は波長が合うとリップサービスを行った。現職大統領がラングレーを訪問すること自体が異例である。しかし、ロシアによる大統領選挙介入を疑うCIAとの関係は冷え切っている。ブレナン長官はオバマ政権退陣とともに去った。後任は、ティーパーティ運動に参加し、下院議員を務めていたマイク・ポンペオが就任しているが、ロシア問題について旗幟を鮮明にしていない。

ロシアの介入を強く批判し、NSAのロジャーズ長官解任を求めたクラッパー国家情報長官もオバマ政権退陣とともに辞任し、上院議員だったダン・コーツが就任したが、彼もまたロシア問題について態度を明らかにしていない。

インテリジェンス活動に疎かったトランプ

なぜこのような混乱が起きたのだろうか。ジョージ・H・W・ブッシュ、つまりパパ・ブッシュは、自らがCIA長官だったこともあり、インテリジェンス活動には明るかった。しかし、その後の4人の大統領、クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、オバマ、トランプは、職業的にインテリジェンス機関とは接触することがなく、その内容に深い理解はなかったのだろう。

クリントンは、アルカイダの台頭に関連してスーダンとアフガニスタンに巡航ミサイルを撃ち込むということはしたが、それ以上の措置は執らなかった。ジョージ・W・ブッシュもまたインテリジェンスには興味がなく、テネットを前政権から留任させるが、2001年の対米同時多発テロで目覚める。

オバマは前政権からの戦争を引き継いだ。それを終わらせることが期待されていたにもかかわらず、それを実現できず、ドローン攻撃、サイバー攻撃などインテリジェンス活動に依存した作戦活動を多用した。スノーデンが暴露したような大規模な通信監視もまた、前政権より拡大させた。

オバマ政権で大きくなったインテリジェンス活動の実態を見せられたトランプはどのように反応したのだろうか。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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