コラム

阻止されたロシアによる選挙介入──攻勢に転じた米国サイバー軍

2019年03月19日(火)16時50分

ネット世論工作部隊として知られるようになったインターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)があった建物 撮影:土屋大洋

<ロシアが2018年米国中間選挙にも大規模な選挙介入を企て、それに対し米国サイバー軍が先制サイバー攻撃していたことがわかった。平時に日本でとりうる備えとしてどうしたことがありうるだろう......>

昨年11月、米国では中間選挙が行われた。下院議員全員と上院議員の3分の1が改選される議会議員選挙である。2016年の大統領選挙および議会議員選挙以来の国政選挙であり、再びロシアからの介入があるのではないかと関係者は懸念していた。当初の報道では、ロシアからの目立った介入はなかったと報道された。

ところが、実際には、ロシアはまたもや大規模な選挙介入を企てていた。その中心となるのは、ウラジミール・プーチン大統領に近いオルガルヒ(財閥)が運営するインターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)であった。サンクトペテルブルクのビルに入っているといわれていたIRAは、2016年大統領選挙後の報道が出た後、姿を消したと見られていたが(2017年12月のコラム)、依然として活動を続けていた。しかし、彼らの2018年米国中間選挙妨害は失敗に終わった。なぜか。

ロシアを先制サイバー攻撃した米国サイバー軍

実は、再び選挙に介入されることを恐れた米国サイバー軍と国家安全保障局(NSA)がIRAをインターネットから追い出してしまったのである。

米国国防総省は「前方防衛(defend forward)」という概念を中間選挙前の2018年9月に公表していた。それは、米国内でサイバー攻撃を起こさせず、外国からの介入を起点となる外国で未然に防いでしまうということだった。11月の中間選挙でサイバー軍はそれを実践していたことになる。

米国のワシントン・ポスト紙に掲載された記事によると、米国の選挙に介入しようとするロシアの企てを阻止する最初の攻撃的サイバー作戦だという。サイバー軍はこれまでイスラム国や北朝鮮に対してサイバー攻撃を行ってきたことが報道されている。おそらく中国に対しても秘密のサイバー作戦活動は行われているだろう。しかし、ロシアの活動を未然に防止するために攻撃的に出たところが新しい。

「基本的にはIRAをオフラインにした」という関係者の言葉が記事には引用されているが、実際にどのように行ったのか、詳細は分からない。投票日と開票作業中にロシアが偽情報を流して投票結果を左右したり、投票の正統性を人々が疑ったりすることがないようにしたようだ。どうやらサイバー軍側はIRAに深く浸透していたようで、思うように活動ができないIRAの工作員が、システム管理者に不満を述べていたことも明らかにされている。

さらには、ロシアのインテリジェンス機関である参謀本部情報総局(GRU)に雇われた悪者ハッカーに対しては、電子メールやテキストメッセージを送りつけ、実名やオンラインのハンドルネームを把握していることを伝え、選挙に介入しないよう脅したという。

これぞ、サイバー前方防衛のやり方なのだろう。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米金融規制当局、キャピタル・ワンのディスカバー買収

ワールド

全米で数千人規模の反トランプ政策デモ、「王政いらな

ビジネス

金融政策の独立性、米で疑問視される状況望まず=シカ

ワールド

イスラエル軍、ガザ救急隊員ら15人殺害のミス認める
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 4
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 5
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 9
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story