コラム

インテリジェンス機関をもてあますトランプ大統領

2017年07月21日(金)18時10分

大統領選挙勝利後、初めてホワイトハウスでオバマ大統領と会談したときのトランプが興味深い対応を見せた。選挙期間中の毒舌が消え、予定時間を大幅に延長して会談を終えたトランプは、神妙な顔で「たくさんの色々な事柄について話し合った。素晴らしいことも、いくつかの困難なことも」と記者会見で話した。ここで何を話したのかは明らかにされていないが、北朝鮮問題が取り上げられた話題だったのではないかとされている。

トランプ政権成立後の2017年3月、ニューヨーク・タイムズ紙は、オバマ政権が北朝鮮のミサイル・システムにサイバー攻撃を仕掛けていたのではないかと報じた。前政権も現政権も報道内容については認めていないが、もしそうだとすれば、ブッシュからオバマにスタックスネットが引き継がれたように、オバマからトランプにサイバー攻撃が引き継がれたことになる。

おそらく、トランプは、米国のインテリジェンス機関、そして軍の作戦活動の内容に驚かされたのではないだろうか。それ故に、大統領選挙期間中に自分が監視されていたと思い始めたのかもしれない。

トランプ大統領は、政治経験がほとんどなかったように、インテリジェンスに関する経験も知識もなかった。その点ではまったくの素人だったと言って良い。自らが上に立つインテリジェンス活動の大きさと内容に驚き、どう扱って良いのか、困っているのが現状ではないだろうか。それが現在の混乱を生んでいるのだろう。政権発足前後では、トランプはインテリジェンス機関のブリーフィングを週1回しか受けなかったという報道もある。オバマ大統領は在任時に週5回受けていた。

サイバーセキュリティはインテリジェンス機関との連携なしには成り立たない。そういう点では、トランプ政権のサイバーセキュリティ政策は、いまだ地に足が付いていないというべきだろう。サイバーセキュリティは、軍事的に重要になっているだけでなく、民間の商業活動にも多大な影響を及ぼす。米国大統領選挙に続いて、フランス大統領選挙でもロシアによると推定される介入があった。歴代の政権の多くもインテリジェンス機関との関係構築に問題を抱えていたとはいえ、トランプ政権がインテリジェンス機関との関係をどう安定化させるかが今後の鍵だろう。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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