コラム

インテリジェンス機関をもてあますトランプ大統領

2017年07月21日(金)18時10分

ポスト冷戦から対米同時多発テロへ

パパ・ブッシュを継いだビル・クリントン大統領は、3人のCIA長官を使った。最初のジェームズ・ウールジーとはまともな関係を築くことなく終わり、政権一期目の途中で、ジョン・M・ドイチュに交代する。しかし、ドイチュは最初からこの仕事に乗り気がしなかったようで、スキャンダルもあって1年で辞任し、マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授になる。ドイチュの辞任の後、国家安全保障補佐官だったアンソニー・レイクがCIA長官に指名されるが、議会の承認が得られず、レイクは辞退する。CIA長官のポジションは、議会スタッフからクリントン政権の国家安全保障会議(NSC)のスタッフになり、さらにCIA副長官になっていたジョージ・テネットに受け継がれた。

テネットはクリントン政権の最後までCIA長官として務めた後、ジョージ・W・ブッシュ政権でも引き続き務めることになった。民主党から共和党への政権交代にもかかわらず留任したことは、ブッシュのインテリジェンス軽視を示しているのではないかと疑われた。

ところが、ブッシュ政権が2001年1月に成立してから8カ月後、9月11日に対米同時多発テロが発生してしまう。これがブッシュを戦争大統領へと変化させ、軽視していたインテリジェンス活動にどっぷりと浸からせることになる。

テロ後のブッシュのそばにはテネットが張り付くようになり、2003年のイラク戦争へとつながっていく。イラク戦争開戦直前、開戦の根拠となる大量破壊兵器について「証拠はこれだけしかないのか」と尋ねるブッシュに対してテネットは、今ある証拠だけで「スラムダンクですよ」と答え、開戦判断を後押しすることになった。

テネットおよびCIAの判断は、後に間違いだったことが判明する。イラクは大量破壊兵器を持っているかのように振る舞っていたが、実際には持っていなかった。2004年11月、テネットは個人的な理由を辞任するが、実質的には責任をとらされたと見られた。ところが、その年の暮れ、ブッシュはテネットに大統領自由勲章を授与し、その労に報いた。ビル・クリントンのスタッフだったテネットは、ブッシュの絶大な信頼を得たということだろう。

テネット辞任の後、CIA長官はポーター・ゴス下院議員、マイケル・ヘイデン空軍大将に受け継がれるが、それぞれ1年あまりで辞任している。

オバマ政権とインテリジェンス

2009年1月に民主党のバラク・オバマ政権が成立すると、クリントン政権で活躍した大物レオン・パネッタがCIA長官に就任する。パネッタで安定するかと思われたが、彼が2年あまりで国防長官に横滑りすると、デヴィッド・ペトレイアス退役陸軍大将が代わりに就任した。ところが、ペトレイアスは不倫騒ぎを起こしてしまい、その過程で機密情報漏洩が疑われたため、辞任せざるを得なくなる。

オバマ政権の最後までの4年弱を務めたのがジョン・ブレナンである。しかし、彼はそれほど目立つことはなかった。というのも、対米同時多発テロ後の制度改革で、CIA長官による中央情報長官兼任が解かれ、新たに国家情報長官(DNI)というポジションがインテリジェンス・コミュニティ全体を統括することになっていたからだ。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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