コラム

日本の「かわいい」と似て非なる「ピンク・カルチャー」とは何か

2017年02月15日(水)11時25分

From Petra Collins @petrafcollins

<ピンクやパステル系の色を多用し、フェミニズムを全面に押し出した新しいスタイル。その代表格、ぺトラ・コリンズの魅力は独特の耽美性にある>

ここ数年のインスタグラムの台頭とともに、写真界で新しく出てきたスタイル、あるいはムーヴメントがある。「ピンク・カルチャー」だ。夢見がちなティーンエージャーが好むピンクやパステル系の色を意図的に多用した写真スタイルである。

表面的には日本の"かわいい"文化に近いものがあるかもしれない。だが、その意図するのもの、発生形態、そして中身はまったく違う。若手の写真家あるいはアーティストたちが中心になり、彼らがこうあるべきと思うフェミニズム――たとえば「太めの女性は美しい」など――をしばしば全面に押し出しているのだ。

その代表格はニューヨーク在住のカナダ人、ペトラ・コリンズだ。彼女の写真の魅力は、そのメッセージ性に加えて、独特の耽美性にある。圧倒的なポップ性の中に時おり並列して滲み出ている退廃性である。

まだ24歳ながら、耽美性と力強さのある作品ですでに一世を風靡している。ヴォーグ誌、エル誌などで活躍し、グッチやアディダスの広告写真やビデオも手がけ、また自らモデルとしてファッションショーのランウェイにも登場している。

活動家とは自称しないが、フェミニズムというレンズを通して作品をつくり上げていっている、という。もちろん、女性のステレオタイプな価値観を打破する大きな狙いがある。その方法論として、しばしば女性の肉体を自由に解放させる手法も取っている。実際、コリンズを一躍有名にしたのは、下半身を撮影した数年前のセルフィーだった。

ヌードではない。下着姿である。ただ、アンダーヘアーがくっきりとはみ出ていた。一般に女性は、ヘアーが下着や水着からはみ出ないように手入れをしておかなければならない、という社会的通念がある。そうした男性中心社会の偏見にメッセージを送るためだった。

だが結局、その写真はインスタグラムから消され、彼女のアカウントそのものまで削除されてしまった。インスタグラムの規約を犯しているかどうか、疑問符がつくにもかかわらずだ。

とはいえ、相変わらずセクシーで、新たな女性の美の定義や価値観を模索する作品を発表し続けている。また、他の若きピンク・カルチャーの写真家、すなわち自らと同じような耽美性、新フェミニズムの価値観を持った女性たちを集めた写真グループも作っている。The Ardorousだ。

昨年、そのメンバーたちの作品を抜粋した写真集"BABE"も発売した。キュレーター、編集者としても活躍しているのである。

【参考記事】拒食症、女性器切断......女性の恐怖・願望が写り込んだ世界

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story