コラム

イラン・イラク戦争から40年、湾岸危機から30年:イラン革命以降、いまだに見えない湾岸地域の到達点

2020年07月31日(金)15時20分

アメリカやサウディとの読み合いにことごとく失敗したイラクのフセイン政権は、最後には米軍と全面対決したうえで、「アメリカと戦って生き残ったヒーロー」となることを選んだ。地上戦の激しさに耐えきれずクウェートを撤退したイラクは、その後はひたすら政権が生き延びることに専念した。1991年3月に起きた全国暴動を鎮圧すると、引き続く国連経済制裁を耐え忍びながら、政権が生き延びること自体が勝利であると位置付けた。

アメリカの当時のブッシュ父政権は、フセイン政権が戦後も長続きするとは思わず、歯がゆい思いをしながらも打つ手がない。介入しようにも、その大義がない。戦争にまでエスカレートさせながら、イラクもアメリカも、湾岸戦争後お互い何をしたいのか、どういう状態を求めているかうやむやのまま、終わってしまった。

そして、そのうやむやを終わらせようとして始めた2003年のイラク戦争でも、フセイン政権を終わらせるという以外のうやむやは、はっきりしないままだった。アメリカはイラクに何を期待しているのか、イラクと湾岸アラブ諸国との間はどうあるべきなのか、そして最大の問題は、そもそもの発端であるイランのイスラーム共和制政権と、周辺国やアメリカはどう折り合いをつけていくのか。見通しがないことで、結局イラクも安定せず、イランとの対立構造は湾岸全体に広がり、アメリカの対中東政策の長期的な展望は、いまだ不明なままだ。

読み間違いを正して、意志疎通をはっきりさせ、長期的な青写真を共有して、域内の安全を確立していく。そんなプロセスをすべて否定して、とりあえず目の前の「敵」を軍事力で排除しようと、到達点をうやむやにしたまま始められた戦争・危機が、40年前のイラン・イラク戦争であり、30年前の湾岸危機である。

さて、31年前のイラン民間機「誤爆」事件を彷彿とさせる昨今の米・イラン間の緊張状態、「×××0年に始まる不毛な戦争リスト」に加わらなければよいが。

<関連記事:アラブ世界とBLM運動:内なる差別を反差別の連帯に変えられるか

プロフィール

酒井啓子

千葉大学法政経学部教授。専門はイラク政治史、現代中東政治。1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』『イラク戦争と占領』『<中東>の考え方』『中東政治学』『中東から世界が見える』など。最新刊は『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』。
コラムアーカイブ(~2016年5月)はこちら

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