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歴史を軽視した革命思想から解き放たれ、初体験は55の夏
テレサ・テンを流しながら女性と...
文化大革命、革命歌劇、文芸戦士......と言葉ばかりはいかついが、この劇団で過ごした6年間では青春を謳歌した。当時、中国を牛耳っていた四人組の江青が大のバレエ好きだったこともあって、歌舞劇団での待遇は恵まれていた。文革で信仰が禁じられた「関帝廟」(関羽を祀る寺院)が私たちの練習場だ。さらに公園の中という緑豊かな空間に宿舎まで用意された。当時、中国では食糧配給制が実施されていたが、15歳にして月43キロもの穀物配給券が支給された。余った配給券はヤミで転売し、帰省の汽車賃にあてたことを覚えている。
若者らしい恋の話もある。イケメン・バレエダンサーである私はずいぶんとモテたが、その話をばらすと妻から嫉妬されてしまいそうだ。ここでは団員Lくんのエピソードを紹介しよう。意中の女性とどうにか結ばれたいと考えたLくんだが、問題は場所。当時の中国にはラブホテルなどなく、寮も大部屋なのだ。それでも同僚がいないすきを見計らってどうにか女性を自室に招いた。用意したのは給料2カ月分をはたいて購入したサンヨーのラジカセとテレサ・テンのカセットテープだ。音がもれないよう2人で布団をひっかぶり、テレサ・テンを流しながら、不器用に服を脱がし始めた......。というところで、歌舞劇団のお偉いさんがやってきてお説教。どうやら同部屋の同僚が告げ口したらしい。まだ建て前上は婚前交渉が許されない時代だ。こっぴどく叱られたのだった。
文化大革命というと、総括や吊し上げ、暴力といったイメージが強いが、人間の生と性は完全に抑圧できるものではない。人々はささやかな楽しみを見つけて暮らしていた。
歴史ある寺院で繰り返した失礼なこと
7月1日の建団記念式典には多くの元団員が集まった。あのLくんと彼女もいた。結局、お偉いさんに見つかった2人は仲を引き裂かれたのだが、久々に再会すると女性はカラオケでテレサ・テンを唱っているではないか。焼けぼっくりに火が着かなければいいのだが。
多くの仲間たちと旧交を温め楽しい時間を過ごした私だが、心の中に何かもやもやしたものがわきあがってくるのを感じた。それが何なのか、はっきりと痛感したのはかつての練習場だった関帝廟を訪れた時のことだった。バレエバー代わりに廟の欄干に足をかけ、膝を伸ばす練習のポーズを取った。当時は何も考えることなく土足でやっていたが、今はとてもそんなことはできない。失礼のないようにと靴を脱いだが、それでも罪悪感はぬぐい去れなかった。歴史ある寺院でこんな失礼なことを毎日繰り返していたのだ、なんということをしていたのだろうという後悔の念が去来した。
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