コラム

韓国現代史の暗部を描くポリティカル・ノワール、『ソウルの春』の実力

2025年02月22日(土)13時10分

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN

<1979年の粛軍クーデターをテーマに、韓国でも日本でもヒットした『ソウルの春』はエンタメながら政治家や軍人への批判をためらわない>

1979年10月26日、韓国で長く強圧的な独裁政権を敷いてきた朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が暗殺された。

これを契機に、朴政権下で弾圧されていた多くの政治家たちが復権し、自由な言論や報道への期待が高まり、学生運動や労働運動も活発化した。


本作のタイトルにもなった「ソウルの春」の時代はこうして始まる。

しかし映画の中で「ソウルの春」そのものはほとんど描写されない。主軸となるのは、大統領暗殺から1カ月余りが過ぎた12月12日に起きた粛軍クーデターだ。

朴政権独裁時代に軍部内の親衛グループとしてつくられた「ハナフェ(一つの会)」のリーダーで、暗殺後に保安司令官に任命されたチョン・ドゥグァン少将はハナフェのメンバーたちと結託して、クーデターの準備を始めていた。

不穏な動きを察知したチョン・サンホ参謀総長は、時計の針を戻すべきではないとして、腹心のイ・テシン少将に首都警備司令官への就任を要請する。

しかしチョン・ドゥグァンを中心としたハナフェの動きは早かった。チョン・サンホ参謀総長は拘束され、国防部や陸軍本部も制圧され、12月12日夜に始まったクーデターは9時間後、反乱軍の勝利で終結する。

主人公は2人。反乱軍を率いるチョン・ドゥグァンは権力欲が強く狡猾なキャラクターとして描かれる。チョンとライバル関係にあったイ・テシン首都警備司令官は、私欲をほとんど持たない清廉潔白な軍人として描写されている。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

石破首相の物価高対策、「新たな予算措置伴うものでな

ワールド

インドネシア中銀、ルピア防衛へ介入 アジア金融危機

ビジネス

日経平均は4日ぶり反発、米関税懸念後退を好感 終日

ワールド

米ロのウクライナ停戦交渉、国連なども関与へ=ロシア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 6
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 7
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 8
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    トランプの脅しに屈した「香港大富豪」に中国が激怒.…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story