コラム

ブレア元英首相のナイト爵位に100万人超が剥奪要求する理由

2022年01月13日(木)13時45分

僕たちの多くが彼を嫌悪している理由は、彼のことをあんなにも長い間信じてしまっていた自分自身に腹を立てているからでもある。2016年、イラク戦争についての独立調査委員会で、イラク戦争につながった英政府のさまざまな決断の誤りが指摘され、当時のブレアの責任が認められたときでさえも、彼は(またも)ごまかしをうまくやってのけた。皆さんが考えるよりはるかに申し訳なく思っていると主張し、まるで打ちひしがれたかのように見せていた......。

だがその後、彼は心から反省した人のようにおとなしくしていたわけではなく、世界の舞台にしゃしゃり出て行き、どうすればブレグジットを覆せるかと説いて回り、腐敗政権からカネを吸い上げる政治コンサルタントのビジネスを大々的に築き上げ、巨額な資産を蓄えた。

そして今、僕たちは彼にナイトの爵位を与えないことで彼に代償を与えたいと思っているのだ。

神の意志を実行しているとでも?

多くの人々は彼のことを単純にソシオパス(社会病質者)だと見ている。ソシオパスは権力とカネを愛し、自らの行動に良心の呵責を感じることはない。思ってもいないことを感情豊に演じるのが上手で、罪の意識を感じないから嘘をつくのがとりわけ得意だ。ブレアはその特質に合致しているように見える。

その一方、ブレアは強い信仰心の持ち主で、時に神の意志を実行しているのだと信じ込んでいるかのように見えることもあった。アメリカ、特にジョージ・W・ブッシュとは違い、イギリス政治においてはこうした傾向はあまり普通ではなかったので、ブレアも自らの信仰について語ることはしなかった(冒頭のコメディアンがブレアを「聖人」にと言いだしたのもこれが理由だ。自らを天啓の伝え手と信じているほどの傲慢さをブレアが持ち合わせていると多くの人々が考えているからだ)。

最初のうちは、ブレアは予想に反していくつかめざましい成果を挙げた。強い抵抗をはねのけて労働党を中道寄りにし、20年以上ぶりに労働党を政権に返り咲かせた(今でもイギリス史上最大の圧勝だった)。ホームレス問題に取り組んでかなりの成功を収め、北アイルランドとは「聖金曜日の合意」でかなりの和平協定を実現した。どちらも長い間、解決できずにきた問題だった。1999年のコソボ紛争介入もリスクの高い決断だったが、ブレアと米クリントンの軍事介入によって、セルビアの攻撃からアルバニア系住民が守られた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏メディア企業、暗号資産決済サービス開発を

ワールド

レバノン東部で47人死亡、停戦交渉中もイスラエル軍

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story