コラム

イギリスのパブ営業短縮はコロナ対策の悪手

2020年10月08日(木)15時40分

悲しいかな、事はそう簡単ではなく、この規制も予期せぬ結果を引き起こしているようだ。多くの若者にとって、宴もたけなわでパブを追い出されることは、おとなしく家に帰ることを意味しない。彼らは近場の酒類販売店に押し寄せ、即席で路上飲みをしたり互いの家になだれ込んだりして未完の飲み会を続ける。

店主らが指摘しているとおり、パブは新型コロナウイルス予防にさまざまな対策を取っている。テーブルとテーブルの間に仕切りを置き、入口に手指消毒ジェルを設け、拭き消毒を徹底し、混雑を避けて客席を減らし、人々が集まらないよう列に並んでのオーダーシステムもやめた。どうやら新たな「門限」は、人々をパブ飲みからむしろ安全でない場所へと追い立ててしまったようだ。この傾向は確実にパブの収益を低下させ、多くの店を廃業に追い込むだろう。

イギリスで行われたさまざまなロックダウン(都市封鎖)規制の中で、特に過酷なルールの数々に比べても、このパブ規制は僕にとって最も悪手に思える。感染率が再び増加するなかで、これは典型的な「対策しているふりをするための対策」にすぎないと非難する人もいる。

個人的には、パブを規制しようとする政府のやり方は、彼ら統治者が単にパブとは無縁であることと関係があると思う。パブには労働者階級カルチャーとしての側面があり、私立学校で教育を受けた上流階級にはよく理解できないだろう。

たまに、パブで過ごすイギリスの国会議員のニュース写真を目にすることがあるかもしれない。これは明らかに、私も一般国民の皆さんと同じですよとアピールする選挙向けのパフォーマンスだ。場違いさばかりが印象に残るのだが。

<2020年10月13日号掲載>

20250204issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月4日号(1月28日発売)は「トランプ革命」特集。大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で、世界はこう変わる


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

蘭ASML、四半期決算での新規受注公表中止 株価乱

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1

ワールド

ソフトバンクG、オープンAI出資で協議 評価額30

ビジネス

経営統合の可能性についての方向性、2月中旬までに発
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story