アングル:長期金利急低下、米関税でパニック買いも 揺らぐ日銀利上げ予想

4月4日、トランプ関税による世界的な金融市場の動揺が日本の債券市場にも波及し、今年に入って急ピッチで上昇してきた日本の長期金利が一転して急降下している。写真は円紙幣。2022年9月撮影(2025年 ロイター/Florence Lo)
Tomo Uetake
[東京 4日 ロイター] - トランプ関税による世界的な金融市場の動揺が日本の債券市場にも波及し、今年に入って急ピッチで上昇してきた日本の長期金利が一転して急降下している。株式などのリスク資産から資金を移す動きが広がり、水準を問わないパニック的な買いも観測された。金利スワップ市場では年内1回の追加利上げさえ難しいとの織り込みが進み、「半年に1回ペース」としてきた市場の利上げシナリオは揺らいでいる。
<関税は予想外の厳しさ、市場にサプライズ>
長期金利の指標となる新発10年国債利回りは4日、前営業日比20ベーシスポイント(bp)低下の1.16%と1月7日以来3カ月ぶりの水準まで急降下した。
トランプ米大統領が米国時間2日午後(日本時間は3日早朝)発表した相互関税をきっかけとした世界的な投資家のリスク回避の動きが継続し、日米の株価が急落した一方で安全資産とされる日米の国債が買われ、米10年債利回りも半年ぶりに4%の大台を割り込んだ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストは、発表された関税は「広範かつ大規模。日本にも厳しい内容で、市場には完全にサプライズ」だったと話す。景気下押し懸念が増幅した結果、グローバル金融市場でのリスクオフを招き、ひいては日銀の利上げパスへの不透明感につながったと指摘した。
<日銀利上げ、年内の確率急低下>
トランプ関税の発表が転機となり、日銀の利上げ観測はこの2日間で大きく後退している。
東短リサーチ/東短ICAPによると、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む日銀の利上げ確率は、トランプ関税発表前には5月会合が20%、6月35%、7月25%で、9月会合は20%弱と、9月末までに0.25%の利上げが1回あるとほぼ織り込んでいた。
続いてトランプ関税の発表を受けた直後の3日午後には、5月会合での利上げ確率が5%強に低下、6月・7月・9月の織り込みはほぼ変わらずで、やはり9月会合までに0.25%の利上げを1回織り込んでいた。
異変が起きたのはトランプ関税発表から2日目となる4日だ。5月会合での利上げ確率がほぼ消滅しただけでなく、6月・7月・9月・10月のいずれの会合も確率が10%未満と、年内に0.25%の利上げがあるとの見方がコンセンサスではなくなり、代わって日銀は利上げに動けないとの見方が浮上した。
<市場を「恐怖感」が支配>
三菱UFJアセットマネジメント債券運用第二部の小口正之エグゼクティブ・ファンドマネジャーは「関税の影響がすぐに見えない中、日米株の急落で市場に不安感が増した。昨年8月初めに世界金融市場が動揺して株が急落・金利が大幅低下した時の恐怖感が蘇り、日銀の今年の利上げ織り込みを剥落させた」との見方を示す。
4日午前には日銀の正・副総裁が衆院財務金融委員会に出席、「米国による自動車関税や相互関税で内外の経済・物価を巡る不確実性は高まった」などと答弁した。小口氏は「総裁らは一般論を述べたに過ぎないが、恐怖感に支配された債券市場はこれを買い材料視した」と話す。
関西みらい銀行の石田武ストラテジストは、新年度を迎えて「期初の買い」を計画していた機関投資家が「どこが金利の適正水準かわからないまま、ややパニック的に買いを入れた側面もある」と指摘。年度初の4月1日には長期金利が1.5%だったが、トランプ関税で投資目線が定まらなくなったという。
<金利低下に行き過ぎ感>
従来は日銀の次の利上げ時期を7月会合とみていた石田氏も、OIS市場の織り込みが示すように、トランプ関税を受けて10月会合に予想を後ずれさせた1人だ。ただ仮に日銀がこれ以上利上げできないとしても、「長短金利スプレッドを考慮すれば、長期金利が1%まで低下するのは明らかに行き過ぎ。ここから買える人はそういないはずだ」と話す。
また三菱アセットの小口氏も「今回の市場波乱がコロナショックやリーマンショックと同じかといえば、多分そうではないだろう。市場を支配している恐怖感は今がピークの可能性がある」と述べ、相場には過熱感があると指摘。
米国株をはじめグローバルの金融市場が落ち着きを取り戻し、いったん暗雲が垂れ込めた日銀の利上げパスが再び見通せる状況となれば、「長期金利は1.5%台を回復して再び1.6%乗せをうかがう可能性もある」と予想した。
(植竹知子 編集:平田敬之、橋本浩)