コラム

貧しい人ほど「割増金」を払い、中・上流は「無料特典」を享受する

2019年06月07日(金)16時40分

高級スーパー「ウェイトローズ」の店舗には良質で新鮮な食料品がそろっている Neil Hall-REUTERS

<イギリスの富裕層は貧困層より10年長生きして、年金を長く受け取り医療保険を長く利用する>

ロンドンへ向かう電車の中で僕は、「poverty premium(貧困割増金)」を改善しようとの運動についての記事を読んだ。これはイギリスではよく知られた問題。必要なものを手に入れるために、貧しい人々ほど多くのカネを払わなければならない仕組みを指している。

分かりやすい例は、彼らがローンを組むときにずっと高い金利を設定されること。だからもしも彼らの家の給湯設備が壊れたら、新たな2000ポンドのボイラーを購入するカネを借りるために、僕なら5%の金利を課されるところ、彼らはおそらく24%の金利を払わなければならないだろう。そして言うまでもなく、そもそもそれをすぐに買えるだけの貯金がある人だったら、シンプルに一括で購入してローンも金利も必要ないだろう。

貧しい人々は時に支払いが遅れたり、滞ったりして、その場合彼らは自宅のガスや電気の「前払い専用メーター」を設置せざるを得ないかもしれない。彼らは、プリペイドカードなどで前払いしなければならなくなる。この形態の光熱費はたいてい、通常より大幅に割高だ。

僕の妹は以前、引っ越してきた家にこの形式のメーターがついていたのに気付いてギョッとしたことがある。彼女と夫はどちらもクレジットヒストリーに問題がないことを証明して、このメーターを撤去させるのに数カ月を費やした。さらに彼女は、無料でこの手続きをしてくれるエネルギー会社を1社選ばなければならず、その会社のエネルギー価格が最安値であろうがなかろうが1年間は乗り換えができなくなってしまった。だから、この一件から分かるのは、最悪の支払いプランから逃れることは迅速にもできないし安上がりにも済ませられない、ということだ。

貧困でいることはカネのかかる状況であり、だからこそ「貧困トラップ」と言われるゆえんなのだ。

裕福な人が長生きする理由

たまたま僕は今、ロンドンの高級エリアにある友人の家に滞在している(友人家族が旅行に出ている間、ネコの世話をするためだ)。今日僕は、「貧困割増金」の写し鏡のような「middle-class perks(中流特典)」(と僕が名付けた)について考えをめぐらせていた。ここの駅のごく近くには、高級スーパーの「ウェイトローズ」があり、良質で新鮮な食料品がそろっている。貧困エリアではこうはいかない。ウェイトローズは「目印」のような店で、まずまず裕福な人々が住むお上品な地域に出店していることが多い。

僕の友人の家のそばには、有り余るほどの公園や緑地がある。ジョギングするには理想的だ。公営プールも数々のテニスコートも、ウェイトトレーニングマシンが置かれた無料の屋外「ジム」もある。もう一度言うが、貧困エリアではこうはいかない。

イギリスでは、裕福な人々は貧しい人々より10年ほど長生きする場合が多いという。もちろんそれは個人のライフスタイルの選択によるところが大きいけれど、高品質な食料品やスポーツ施設にアクセスしやすい状況であるほど、食生活において「良い選択」をすることも容易になる。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story