コラム

H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかかる防災への期待...「攻めの姿勢」で世界に示した技術力の優位性

2024年07月01日(月)22時10分

打ち上げ成功後、「ホッとしている」と語った有田氏

打ち上げ成功後、「ホッとしている」と語った有田氏 筆者撮影

その他にも、海洋で船舶や海氷の位置を把握したり、地球規模で農作物の作付け状況や森林破壊のデータを得たりすることで、国際社会への貢献も計画されています。

だいち2号の開発に携わり、4号では中核を担うプロジェクトマネージャとなった有川氏によれば、2号と4号を同時に運用することで、さらに世界でも類のないデータを取得できるかもしれないと言います。そのために、だいち4号は2号と同じ軌道上に打ち上げてもらったそうです。

たとえば2号と4号の両方を使うことで、250キロの幅をほぼ同時に観測したり、2号を追いかけるように短時間の時差で4号でも観測して移動物体を検出したり、2機を連携することで地面を立体視して3D画像を取得したりなど、アイディアは広がります。

有川氏は以前、能登半島地震の発生初日に「だいち2号」が被災地の状況を捉えた画像を示しながら、「この時に、もしだいち4号が運用開始していれば、東西に70キロある能登半島の全域をカバーできていた。だいち2号では珠洲市の一部が観測できなかった」と悔しそうに語ったことがあります。

これから日本は台風や水害が多いシーズンが到来します。また、広域に甚大な被害が予想される南海トラフ地震もいつ起きてもおかしくありません。

だいち4号は打ち上げられた後、まずは3日以内に姿勢の確立や太陽電池パドル、アンテナの展開をし、今後6ヵ月かけて実用に耐えるかの機能チェックを行います。少なくとも「だいち4号」の観測が安定するまでは、設計年数を大幅に超えている「だいち2号」に、観測の空白期間が起こらないように頑張ってもらわなければなりません。有川氏によれば「常に挙動を監視しているが、おかしな様子はなく、まだしばらくは大丈夫そうだ」とのことです。

自然災害大国の日本は、とくに宇宙からの見守りが威力を発揮します。だいち2号がさらに長持ちし、だいち4号とのコラボでますます「減災」に役立つことに期待したいですね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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