コラム

H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかかる防災への期待...「攻めの姿勢」で世界に示した技術力の優位性

2024年07月01日(月)22時10分

6月28日に行われた事前記者会見での有田氏と有川氏

6月28日に行われた事前記者会見での有田氏(左)と有川氏(同右) 筆者撮影

とはいえ、1号機の失敗は、第2段エンジンが点火せずに推力を失ったことが原因です。筆者が有田氏に「推力を抑えることに心配はなかったですか」と尋ねたところ、「搭載する『だいち4号』は大切な衛星なので、関係者に『衛星に優しいつくりである』ことを説明し、納得していただいた。もちろん、うまく機能する自信があります」と話していました。

「うまくいっているロケットは、変えてはいけない」と語ったのは、米アポロ計画を主導した科学者ヴェルナー・フォン・ブラウン博士です。しかしH3ロケットの関係者は、開発に敢えて攻めの姿勢を貫き、宇宙輸送で日本の技術力の優位性を見せることに成功したと言えるでしょう。

有田氏は打ち上げ成功後、「だいち3号を失った初号機では、失敗したその日に『大変申し訳ない。必ずH3ロケットを立て直す』と関係者に語った。その意味ではホッとしているし、今後も連続成功あるのみだ」と力を込めました。

地殻変動をより迅速に発見できる可能性

さて、3号機が宇宙に運んだ「だいち4号」は先進レーダ衛星です。

地球観測衛星「だいち」シリーズには、①可視光から近赤外線を観測できる光学センサと合成開口レーダー(SAR)を積載。東日本大震災時に緊急観測を行った初代「だいち」(06~11年)、②SARを積載し、5年の設計寿命を超えた現在も現役で活躍。24年1月の能登半島地震後の地殻変動の解析にも役立った「だいち2号」(14年~)、③光学センサを積載し、初代だいちの機能を継承する予定だった「だいち3号」(23年に打ち上げ失敗で喪失)、④SARを積載し、だいち2号の後継かつ進化版である「だいち4号」(24年~)があります。

光学センサと比べてSARが優れているところは、電波で観測するため太陽光を必要とせず、夜や厚い雲がかかっていても同じように高い解像度の画像が得られることです。

だいち4号は、3メートルの分解能で1度に幅200キロ(だいち2号は1度に50キロ)の範囲を観測できます。わかりやすくたとえると、千葉県の犬吠埼から富士山までの幅のデータを一気に取得することが可能です。

日本全域のデータを14日間で取得できるので、「前回との差」をより頻繁に探れます。つまり、地震や火山噴火につながったり、水害や土砂崩れの兆候などが見られたりする地殻変動をより迅速に発見できる可能性が高くなり、災害の事後把握だけでなく異変の早期発見が強化されることで防災につながることが期待されます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナでの戦闘再開、「復活祭の停戦」終了=プー

ビジネス

トランプ氏、早期利下げ再要求 米経済減速の可能性と

ビジネス

関税の影響「控えめの公算」、FRBは状況注視=シカ

ワールド

ローマ教皇フランシスコ死去、88歳 初の中南米出身
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 4
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 9
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 10
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 9
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 10
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story