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H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかかる防災への期待...「攻めの姿勢」で世界に示した技術力の優位性
経済産業省宇宙産業室によると、22年時点での世界の宇宙産業の市場規模は約54兆円(1ドル140円で換算)で、4分の1が政府予算、4分の3が民間の衛星サービスや打ち上げ関連ビジネスです。アメリカの金融機関であるモルガン・スタンレーは、2040年までに約3倍の140兆円規模になると見積もっています。
世界の年間ロケット打ち上げ成功回数は、23年にはついに200回を超えました。うち約半数はスペースX社によるものです。一社に一人勝ちさせないために、今後はアメリカ、中国、日本、フランスなどを中心に、信頼性や低コスト、利便性を武器にした衛星打ち上げの受注競争が激化することが予想されます。
H3ロケットの打ち上げコストはH2Aの半分
H3ロケットを一言で表せば、「究極の使い捨て型ロケット(ELV)」です。
近年はスペースXの急成長で、ロケットを回収して再度宇宙に打ち上げることでコスト減を図る「再使用型宇宙往還機(RLV)」に注目が集まっています。しかし、ELVも決して過去の遺物ではありません。長年の技術開発による高い信頼性があり、工夫次第で製造コストも下げることができます。
H3ロケットの前機であるH2Aロケットは24年1月に48号機が打ち上げられ、42回連続で成功、成功率は97.9%と世界的に見ても抜群の信頼性を誇っています。けれど、打ち上げのコストが1回につき約100億円で、スペースXのRLV「ファルコン9」の4900万ドル(23年時点、約74億円)と比べて3割ほど高いことがネックでした。
H3は電子部品の9割に自動車向けのものを使うなどして、打ち上げコストをH2Aの半分の約50億円、発注から打ち上げまでの期間も半減の約1年を目指しています。実現すれば、人工衛星の打ち上げ受注で国際社会で十分に戦えると期待されています。
「攻めの姿勢」で示した日本の技術力の優位性
とはいえ1号機では搭載の人工衛星を失い、2号機は成功したとはいえ、慎重を期して予定されていた「だいち4号」ではなくダミーを運びました。3号機で初めて実際の人工衛星を宇宙に運ぶことに成功しましたが、もし再度、人工衛星を失うようなことになっていたとしたら、日本の大型宇宙輸送産業は苦しい立場に立たされたでしょう。
その点を踏まえて、先月28日に行われたメディア向けの事前説明会で筆者が驚いたのは、3号機は成功した2号機に手を加えた機体であることでした。
第1段エンジン「LE-9」は、2号機では1号機に使われたタイプ1と一部を改修したタイプ1Aを1基ずつ搭載していましたが、3号機は2基ともタイプ1Aが使われています。
さらに特筆すべきことは、第1段エンジンの燃焼停止直前の約20秒間で、今回初めて「スロットリング」を飛行実証することでした。
スロットリングでは、意図的にエンジン推力を下げることで、搭載した人工衛星にかかる加速度ダメージを軽減します。有田プロジェクトマネージャによると、3号機では推力を一時的に66%にすることで、一般的なロケットでは搭載衛星に最高で約5.5Gかかるところ、4G程度までに抑えられると言います。
これまでに打ち上げたH3ロケット3機はいずれも第1段エンジンは2基でしたが、今後は3基のものも開発予定です。その場合は、推力がパワーアップするとともに搭載衛星への負荷もより厳しくなるため、スロットリングは必須の技術になります。