コラム

H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかかる防災への期待...「攻めの姿勢」で世界に示した技術力の優位性

2024年07月01日(月)22時10分
H3ロケット3号機による先進レーダ衛星「だいち4号」打上げ

H3ロケット3号機による先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)打上げ 宇宙航空研究開発機構(JAXA)

<なぜH3ロケットプロジェクトチームはすでに打ち上げに成功している2号機に手を加えたのか。また、軌道投入に成功した「だいち4号」に今後期待される役割、同じ軌道上にある2号と同時に運用することで可能になることとは?>

日本の防災や災害状況の把握に重要な役割を果たす地球観測衛星「ALOS-4(だいち4号)」を搭載した新世代の国産大型ロケット「H3」3号機(H3F3、運用1号機)が、1日12時6分42秒(日本時間)に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられました。16分34秒後には「だいち4号」の分離に成功、現地のプレスセンターではライブ中継を見守っていたJAXA職員らが拍手で称えました。

H3は、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)と三菱重工業が「H2A」の後継機として開発した2段式の使い捨て液体燃料ロケットです。イーロン・マスク氏率いるスペースXの急成長で激化する宇宙輸送産業の中で国際競争力を高めるため、「オーダーごとに形態を変えられる柔軟性」「打ち上げや納期の高信頼性」「低価格」を目標に掲げて開発されています。

2023年3月に打ち上げられた試験機1号機は、電気系統のトラブルで第2段エンジンが着火せず、指令破壊(信号を送って意図的に破壊)されました。そのため、搭載していた地球観測衛星「だいち3号」が喪失されました。原因を究明し、改良した試験機2号機は、本年2月に打ち上げに成功しています。

「100点満点の打ち上げ」「我が子の産声を聞いて一安心」

3号機の打ち上げは、当初は6月30日の同時刻に設定されていました。しかし、機体を発射場に移動する時間帯に、ロケット本体や電気系統に悪影響を及ぼす可能性がある雷の予報が出ていたこと、30日には発射場周辺の雲の中に「氷結層」と呼ばれる雷を誘発する低温(およそ0℃~マイナス20℃)層の発生が予想されたことから、1日延期して万全を期して臨みました。

打ち上げから3時間後に開かれた記者会見で、JAXA宇宙輸送技術部門H3プロジェクトマネージャの有田誠氏は「100点満点の打ち上げだった。(初号機で着火せずに打ち上げ失敗した)第2段エンジンが着火したときは『よし!』と声が出た。衛星(だいち4号)の分離で周囲から拍手が起きて、 (前プロジェクトマネージャの)岡田(匡史・現JAXA理事)と抱き合った」と笑顔を見せました。

打ち上げ成功を拍手で称えるJAXA職員ら

打ち上げ成功を拍手で称えるJAXA職員ら 筆者撮影

一方、同ALOS-4プロジェクトマネージャの有川善久氏は「1点の心配もなく打ち上げられ、(ロケットから分離された後に)オーストラリアとチリで『だいち4号』の信号が受信されて我が子の産声を聞いて一安心している。生まれたばかりなので、だいち4号はこれからだ」と語り、表情を引き締めました。

H3ロケット3号機は、2号機からさらに進化させた機能を持つロケットです。大切な「だいち4号」を搭載しているのに、プロジェクトチームはなぜ成功した2号機と同じ機体を使わなかったのでしょうか。軌道投入に成功した「だいち4号」は、今後、どのような役割を期待されているのでしょうか。概観しましょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、トランプ氏の「今週合意」発言にコメントせず

ワールド

対米貿易協議は難航も、韓国大統領代行が指摘 24日

ビジネス

中国、国有企業に国際取引の元建て決済促す 元の国際

ワールド

ローマ教皇フランシスコ死去、88歳 初の中南米出身
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 4
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 9
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 10
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 9
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 10
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story