コラム

テクノロジーで瞑想を不要に TransTech Conferenceから

2019年02月12日(火)16時00分

あのダライ・ラマも、「瞑想を超えるテクノロジー」を待ち望んでいる fokusgood/iStock.

エクサウィザーズ AI新聞から転載

<TransTech Conference 2018の最大のポイントは、人類を「欠乏の心」から「満たされた心」に進化させる技術開発が、いまどの辺りを進んでいるのかということだった。研究室ではすばらしい成果が確認され始めている。間もなく商用化が始まるのだろうか。>

心が苦しいのは人間の脳が袋小路に入っているため

「人間の脳は袋小路に入っているのかもしれない」。数理脳科学の権威、甘利俊一東大名誉教授はそう語っている。脳は、機能を継ぎ足し、継ぎ足ししながら進化してきた。その結果、回路が複雑に入り混じり、最適の状態ではないと言われる。多くの現代人が恐れや不安に苦しむのも、脳の進化が袋小路に入っているのが原因なのかもしれない。不必要な機能や部位はいずれ退化していくのだろうが、それには何十万年もの時間が必要。瞑想は、簡単に改良できない脳という「ハードウェア」の代わりに、脳の使い方という「ソフトウエア」で対処しようという人類の知恵なのかもしれない。

ただ社会が複雑化するにつれ、精神的な疾患に悩む人が増えてきている。また衣食住に満たされ社会的な成功を得た人の間でも、満たされない心の状態に悩む人が多くなってきた。マインドフルネスなどの瞑想法が米シリコンバレーなどでブームになっているのはこのためだ。【関連記事、マズローの欲求5段階説にはさらに上があった。人類が目指す自己超越とは TransTech Conferenceから】

一方で瞑想の効果を実感できるようになるには、数カ月から数年の月日が必要。TransTech Conferenceの共同創始者で米ソフィア大学のJeffery Martin教授は、「もっと簡単に効果が得られる方法が必要になってきている。長年瞑想の研究をしてきたが、それがすべて無駄になってもいいので、テクノロジーを使った最適な方法を開発すべきだと思うようになった」と語っている。

研究者だけではない。瞑想の達人でさえも、瞑想を超えるテクノロジーの早期開発を切望している。2004年に開催された神経科学最大の学会Society of Neuroscienceの年次総会で、基調講演を行ったチベット仏教のダライ・ラマ法王は、瞑想に代わるテクノロジーを求めていると語ったという。会場でその講演を実際に聞いていたアリゾナ大学のJay Sanguinetti教授によると、ダライ・ラマ法王は講演中に話が脱線し「私は毎日2、3時間瞑想している。もし神経科学で悟れるものなら、もう瞑想しなくて済むのですが」と語ったという。講演後の質疑応答の中で「もしわれわれが瞑想を不要にするような技術を開発したら、利用していただけるでしょうか」という質問に対しダライ・ラマは「私が一番最初にその技術を試したいです」と答えたという。

0207yukawa1.jpg

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)ニデック、26年3月期は8

ビジネス

キヤノン、25年12月期業績予想引き下げ 為替や米

ビジネス

ストラテジックC、日産に株主提案 子会社の株式保有

ビジネス

日野社長「最終契約へ前向きな話続けている」、三菱ふ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story