コラム

AIは今後も急速に進化する? 進化が減速し始めた?

2024年06月05日(水)12時40分
(写真はイメージです) Mohamed Nohassi-Unsplash

(写真はイメージです) Mohamed Nohassi-Unsplash

<米紙はAI革命の減速を報じる一方、著名弁チーキャピタリストは進化は続くと主張>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

5月31日付のWall Street Journal紙が「The AI Revolution is Already Losing Steam(AI革命は既に減速し始めた)」という記事を掲載した。一方で米シリコンバレーの著名ベンチャーキャピタリストMark Andreesen氏は「AIの劇的な進化が止まるとは考えづらい」と語った。AIの進化は減速し始めたのだろうか。引き続き急速な進化が見込めるのだろうか。

AI革命が減速し始めた根拠として同紙は、イノベーションのペースが鈍化し始めたこと、AIの利用料が割高であること、AIの用途が限られていること、などを挙げている。

まず果たしてイノベーションのペースが鈍化しているのかどうか。Andreessen氏は次の10個のような改良が続いていると指摘する。

(1)AIはパターン認識だけでなく汎用計算能力 (General Computation Function)を身につけていることが分かってきた

同氏いわく、AIの学習時にAIモデルの内部で何が起こっているのかを見る技術が発達してきており、AIモデルは単にデータのパターンを記憶しているのではなく、汎用計算能力を身につけていることが分かってきたという。その例として、チェスのデータベースを学習したAIが、チェスの盤面のモデルを構築し、その盤面上で新しい打ち手を試していることが分かったという。

(2)繰り返し学習に効果があることが分かってきた

同じデータを学習し続けても最終的には学習効果が頭打ちになると考えられていたが、実際には同じデータを何度も学習することで性能が向上することが分かってきた。例えばMetaのLlma3の中規模モデルは、同じデータセットを何度も学習し直したことで、パラメーター数が何倍もある大規模モデルと同等の性能を挙げるようになったという。

(3)自己改良ループが可能だという意見

同氏によると、AIの自己改良ループが可能だと考える専門家が増えてきているという。例えばSelf-Consistancyと呼ばれる手法は、AIが答えにたどり着くまでのすべての段階ごとに、どうしてそういう判断をしたのかをAIに答えさせるというもの。この手法を繰り返すことで、AIはそれぞれの段階でどう判断していけば、最後に正しい答えにたどり着くのかをAI自身で学習できるようになる。自分で自分を改良することが可能になるわけで、この手法を通じてAIはどんどん論理的思考能力を高めていき、より正確な回答が出せるようになるという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story