アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではなく、労働力の確保

4月23日、トーマス・ライジンガーさん(55)は、米アーカンソー州ブライスビルにある広大な鉄鋼加工工場で働くため、片道約1時間半かけて通勤している。写真はニューコアのスチール工場で働く従業員。ブライスビルで3月撮影(2025年 ロイター/Karen Pulfer Focht)
トーマス・ライジンガーさん(55)は、米アーカンソー州ブライスビルにある広大な鉄鋼加工工場で働くため、片道約1時間半かけて通勤している。
さらに遠方から通う同僚もおり、そのうち1人は平日キャンピングカーで暮らして週末だけ帰宅する生活だ。ここには、そうした労働者顧客向けのRVパーク(車中泊用の駐車場)が点在している。
輸入関税を通じて米中西部の製造業を大幅拡大するというトランプ米大統領の構想を実現するには、こうした労働者が大幅に増える必要がある。鉄鋼はトランプ氏が思い描く産業の代表例であり、同氏は貿易戦争の第1撃として鉄鋼輸入に25%の関税を課した。
しかし外国企業との競争は、鉄鋼価格を圧迫するのは確かだが、この地域の鉄鋼企業にとって最大の課題ではない。最大の課題は労働力の確保だ。
ブライスビルがあるアーカンソー州ミシシッピ郡のスローガンは「鉄鋼の土地」だが、これは決して過言ではない。経済分析会社チュムラ・エコノミック&アナリティクスの調査によると、郡内の雇用2万人のうち約25%は鉄鋼大手ニューコアとUSスチールが所有する広大な製鉄所や、それらに隣接するパイプ製造会社や金属加工会社など、関連企業で占められている。
ミシシッピ郡経済開発財団の会長、クリフ・チットウッド氏の推計では、製鉄所が直接雇用する労働者の9%が、平日にRVパークや安アパートで暮らさざるを得ないほど遠方から通っている。