スペインあれこれつまみ食い
スペインに次々流れ着くマイクロプラスチック 中央政府は嬉しそう?
エコや持続可能性に強いこだわりを見せるヨーロッパ。ストローや持ち帰り用の袋は紙になり、ペットボトルのキャップはリサイクルされるように注ぎ口から外れない仕様に変更されました。スペインに住んでいるとエコやリサイクルをアピールするようなマーケティングを頻繁に目にし、国や企業の意識の高さを感じます。しかしそんなエコ志向の高いスペインのビーチで今、このエコに対する努力を台無しにしてしまうようなとんでもない事態が起こっているのです。
ビーチが樹脂ペレットまみれ
12月8日、スペイン南部のアルヘシラスの港からオランダ ロッテルダムに向けて出港した貨物船がポルトガル沖で荒波に襲われました。この荒波によって積んでいたコンテナのうち7つが海に落下。さらにそのうち1つのコンテナの扉が衝撃で開いてしまい、積み荷が海に流れ出てしまったのです。運の悪いことに、このコンテナに積まれていたのは重さ26トンを超える樹脂ペレット。樹脂ペレットとは5ミリ程度の大きさの白い粒状の物質で、プラスチック製品の原料として使われるものです。このペレットは「マイクロプラスチック」と呼ばれる物質に分類され、海の汚染や海洋生態系に悪影響を与えている原因のひとつとされているような物質です。そんなペレットがこの事故により大量に海に流れ出てしまい、現在ガリシア州やアストゥリアス州などの至る海岸でこのペレットが大量に漂着していることが確認され、スペイン国民を心配させる事態となっています。
人体への影響も?
最近環境汚染の原因として名前を聞くことが増えた「マイクロプラスチック」。今の段階ではこのプラスチックが人体に与える具体的な影響はまだ解明されていないようです。しかし有害物質を含んだマイクロプラスチックを魚が卵と間違えて食べてしまい、その魚を我々人間が食べることによって有害な化学物質が人間の身体に蓄積されていく可能性はすでに指摘されているということで、今回起きたこの出来事は環境汚染だけでなく人体や生命体へも影響を与える非常事態と言っても過言ではないのかも知れません。
このマイクロプラスチックの大量漂着が初めに確認されたガリシア州。州政府はこの樹脂ペレットを「食しても健康に害はない」と発表し、騒ぎを落ち着けようと必死ですが、環境NGO団体や専門家らはこの樹脂ペレットがこれからもたらすであろう害に警鐘を鳴らしています。
政治が原因で遅れる撤去作業
環境保全に積極的に取り組むスペイン。マイクロプラスチックの有害性など誰もが把握しているであろう中、なぜガリシア州政府は「食しても害はない」と言ったのか。それには政治的な理由が絡んでいると考えられています。ガリシア州は来月選挙を控えているのですが、現在政権を握っている右派のXUNTA党はこの樹脂ペレットの問題が選挙に影響を与えることをどうやら恐れているようで、選挙が終わって政権維持が確定するまではこの出来事を大ごとにせずにやり過ごそうとしているようです。一方、右派を政権から引きずり下ろしたいスペイン中央政府(左派)は、国民の訴えにどこまでガリシア州政府がだんまりを貫くことができるか試すために、この樹脂ペレット撤去作業に全く手を貸そうとしていません。
選挙に響くから見てみぬふりをするガリシア州政府。ガリシア州政府が助けを求めてくるのをニヤニヤしながら待っているスペイン中央政府。政治家たちがこんな状態なので、現在樹脂ペレットの撤去作業を行っているのはボランティアとNGO団体しかいないのです。わずか5ミリにも満たない大きさのペレットを海砂から取り除くのはとても簡単ではありません。特殊な機械などを持っていないボランティアたちは自宅からふるいや網などを持ち寄り、試行錯誤しながら毎日一粒一粒ペレットを拾い集めています。
人体や環境に影響を与えるかも知れない物質が国内に次々と漂流しているにもかかわらず、この出来事を政治や権力に関連づけて全くアクションを起こそうとしないスペインの政治家たち。電気自動車だの温暖化対策だの、日々偉そうに綺麗事ばかり語っているようですが、今回の対応などをみているとやはり所詮環境保全なんて口だけなんだなとがっかりさせられてしまいます。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon